第67話:瓦解
「見事なものだ」
蘇芳が、崩壊した広間を見渡しながらゆっくりと歩み寄ってきた。
近衛兵たちは、絶対的な君主であった右大臣が無残に倒されたこと、そして何より彼ら自身を縛っていた「恐怖の呪縛」が解けたことで、戦意を喪失し、次々と武器を捨てて逃げ出していた。
「これで右大臣の作り上げた無菌室は終わりだ。結界も消滅し、暗渠に閉じ込められていた者たちも地上へ這い出してくるだろう」
蘇芳は、ナユタが床に落としていた密書を拾い上げた。
「この手紙は、私がもらっていく。右大臣の失脚を決定づけ、残った貴族たちを操るための強力な手札になるからな」
「好きにしろ」
ナユタは短く答えた。
権力闘争に興味はない。彼らの目的は、あくまで理不尽なシステムを破壊することだけだ。
「だが、少年。君は分かっているのか?」
蘇芳が、冷ややかな三日月の瞳でナユタを見た。
「完璧な秩序が失われれば、都は混乱に陥る。貧富の差が再び可視化され、争いが起き、血が流れる。……君たちがやったことは、平和の破壊とも言えるのだよ」
「平和のふりをした牢獄よりはマシだ」
ナユタは蘇芳の視線を真っ向から受け止めた。
「混乱するなら、そこからもう一度、人間同士で話し合って作ればいい。誰かを排除して見えないふりをするんじゃなく、全部抱えたまま生きていくしかないんだ」
「……青臭い理屈だ。だが、その強がりがどこまで通用するか、見物させてもらうとしよう」
蘇芳は皮肉げに笑い、密書を懐にしまうと、逃げ惑う兵士たちとは逆の方向、大内裏のさらに奥深くへと消えていった。
彼はこの混乱を利用し、新たな時代の暗躍者となるつもりなのだろう。
「ナユタくん、行くよ。建物が持たない」
朱音の声に促され、ナユタは頷いた。
スイの手をしっかりと握り、三人は崩れゆく回廊を後にして、外への出口へと駆け出した。




