第65話:崩壊
「蘇芳! 天井の葵の飾りだ! あそこに都の霊力が集まってる!」
ナユタの叫びに、蘇芳の目が微かに動いた。
彼もまた、その事実に気づいていなかったようだ。
「……なるほど。都の中枢の霊力を、直接玉座へ引き込むための接続点か。実に大胆な設計だ」
蘇芳は煙管を懐にしまい、懐から数十枚の黒い札を取り出した。
「幻影・千軍」
蘇芳が札を宙に投げると、広間の空間が歪み始めた。
近衛兵たちの周囲に、かつて右大臣によって粛清された、賀茂の一族や、暗渠へ排除された者たちの亡霊が、怨嗟の声を上げて現れた。
それは、蘇芳の幻術が、兵士たちの無意識下にある「穢れへの恐怖」を具現化させたものだ。
「な、何だ貴様らは! 来るな!」
近衛兵たちが混乱し、幻影に向かって槍を振り回し始める。
包囲網が一瞬で崩れた。
「朱音さん! 僕を天井へ飛ばしてくれ!」
「了解!」
朱音は近衛兵を蹴散らし、ナユタのもとへ駆け寄った。
ナユタが朱音の手に足をかけると、朱音は渾身の力で彼を天井へと放り投げた。
「おのれ……ッ!」
右大臣が初めて顔を歪めた。
彼は霊力供給を天井の葵の飾りから自身へ集めようとしたが、蘇芳の幻術によって、その操作が一瞬遅れた。
ナユタは空中で刀を逆手に持ち、天井の黄金細工、葵の紋の中央へと突き立てた。
ガァァァン!!
刀が黄金の飾りに突き刺さり、そこから大量の青白い霊力が、制御を失って噴き出した。
都のシステムの心臓部が、物理的に破壊されたのだ。
「ぐ、あ、あああ……ッ!!
」
右大臣の周囲の防御障壁が霧散し、逆に彼自身の体内に、暴走した霊力が逆流し始めた。
完璧だった秩序が、内側から崩壊を始めた。




