表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/69

第53話:幻影

「どうするの、蘇芳。アンタの案内、いきなり行き止まりじゃない」


朱音が臨戦態勢をとる。

だが、蘇芳は慌てる様子もなく、再び懐から煙管を取り出した。


「案ずるな。彼らは正規の兵士ではない。右大臣の定めた規則に従って、結界の管理だけをやらされている下端の役人だ。……心が脆い」


蘇芳が煙管に火をつけ、紫色の煙を吐き出す。

煙は風に乗り、若い陰陽師たちの方へ流れていく。


「む、何だこの煙は……!」


陰陽師たちが呪符を構えようとした瞬間、彼らの動きがピタリと止まった。

その目は虚ろになり、何もない空間を見つめて震え始めた。


「ひ、ひぃぃッ! 怨霊だ! 賀茂の怨霊が復讐に来た!」

「来るな! 私は命じられただけだ! 結界を張れと言われただけなんだ!」


彼らは錯乱し、見えない敵に向かって呪符を投げつけ、ついには互いに組み合って争い始めた。

蘇芳の幻術が、彼らの心の奥底にある「罪悪感」や「恐怖」を増幅させ、幻影として見せているのだ。


「……なんて趣味の悪い術だ」


ナユタは同士討ちを続ける陰陽師たちを見て、嫌悪感を露わにした。


「効果的だろう? 彼らは自分の恐怖に負けて、自滅していく。私たちが手を下す必要はない」


蘇芳は冷たく笑う。

だが、その時。


「やめて!」


ナユタが走り出した。

彼は錯乱して殴り合う陰陽師たちの間に割って入り、両腕を広げて彼らを強引に引き離した。


「ナユタくん!」


朱音が驚いて声を上げる。

陰陽師の一人が、ナユタを怨霊と勘違いし、その肩を強く突き飛ばした。ナユタは地面に倒れ込むが、すぐに立ち上がった。


「目を覚ませ! 誰も復讐なんか来てない!」


ナユタの叫びに、陰陽師たちの動きが一瞬止まった。

ナユタは蘇芳を睨みつけた。


「術を解け。……彼らはただ命令に従ってただけだ。こんな風に心を壊して同士討ちさせるなんて、やり方が汚すぎる」


「汚い? 君は本当に未来人なのか? 戦いにおいて手段を選ぶ余裕などないはずだが」


「僕たちは、理不尽を壊すためにここに来たんだ。あんたみたいに、弱い者同士を争わせて笑うためじゃない!」


ナユタの真っ直ぐな怒りに、蘇芳は少しだけ目を見開いた。

そして、ため息をつきながら指を鳴らす。

紫の煙が消え、陰陽師たちは幻影から解放され、その場にへたり込んだ。


「……浅はかな正義感だ。だが、その純粋さが右大臣にはない劇薬になるかもしれないな」


蘇芳は興味深そうにナユタを見た。

朱音がナユタの横に立ち、倒れた陰陽師たちを冷ややかに行き過ぎる。


「行くよ、ナユタくん。この呪術師、信用しすぎると足元をすくわれるよ」


「ああ、分かってる」


三人は、気絶した陰陽師たちを残し、開かれた門を通ってついに都の内側へと足を踏み入れた。

そこには、異常なほどに整然とした、無機質な街並みが広がっていた。

本物の闇は、この清潔な箱庭の中心に潜んでいる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ