第52話:関門
都へ通じる裏門の前に到着した。
巨大な木製の門は固く閉ざされ、その周囲には青白い光の帯が幾重にも張り巡らされている。
物理的な門番はいない。だが、それ以上の脅威がそこにあった。
「陰陽寮の結界だ。許可なき者、あるいは『穢れ』を持つ者が触れれば、即座に術者に通知がいき、防御術式が作動する」
蘇芳は白紙の札を取り出しながら説明した。
「特に、君は厄介だ」
蘇芳の視線が朱音に向く。
「生粋の鬼。結界にとっては最大級の異物だ。普通に通ろうとすれば、一瞬で灰になる」
「私を誰だと思ってるの。あんな光の糸くらい、力ずくで引きちぎってやるよ」
朱音が腕を捲ろうとするが、蘇芳がそれを制した。
「強行突破は下策だ。すぐに景虎のような精鋭部隊が飛んでくる。ここは私に任せなさい」
蘇芳は手にした白札を何枚も宙に投げた。
札は空中で静止し、ナユタ、朱音、スイの周囲をぐるぐると回り始める。
「存在の位相をずらす。君たちの生体情報や妖気を、一時的に周囲の自然環境と同化させる術だ。これで結界を欺く」
光の帯が、三人の体をすり抜けていく。
何も感じない。だが、結界は侵入者を検知しなかった。
「……すごい」
ナユタが感嘆の声を漏らした瞬間。
「何者だ!」
門の裏側から、数人の人影が現れた。
白い狩衣を着た、若い陰陽師たちだ。彼らは手に呪符を持ち、鋭い視線をこちらに向けている。
「しまった。定期巡回の時間と重なったか」
蘇芳が舌打ちをした。
結界は欺けても、人間の目はごまかせない。
「貴様ら、どこから入った! その女からは、隠しきれない妖気が漏れているぞ!」
若い陰陽師が朱音を指差す。
彼らの目には、蘇芳の隠蔽術越しでも、朱音の圧倒的な存在感がぼんやりと見えているようだ。




