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第5話:重罪

「な、なんだこの女は……?」


国司・保則は、輿こしの上でたじろいだ。 目の前の少女は、一歩も動いていない。 だというのに、肌を刺すような冷気が、保則の喉元に刃を突きつけているような錯覚を覚えさせる。


「貴様、何者だ! 国司である私に楯突くか!」


保則は扇で朱音を指し示し、喚いた。


「国司とやら、民から奪った穀物はどれくらいか覚えているかい?」


「そんなこと知るものか!この地の民も、土地も、すべては朝廷から預かった所有物だ! 貢ぎ物が足りぬなら、その身を売ってでも払うのが道理だろうが!」


民から搾取することは、牛馬を働かせるのと同じ、当然の権利だと信じ込んでいる。 その傲慢さこそが、最大の罪だった。


朱音は、侮蔑すら通り越した、無感情な瞳で保則を見上げた。


「……そう。わたしには見えるけどね、アンタが奪った穀物の重み、命の重みを…」


朱音の足元から、ぬらりと赤黒い影が伸びた。 それは生き物のように地を這い、保則の乗る輿の下へと忍び寄る。 朱音は汚いものを見るように目を細め、静かに告げた。


「体に聞いてみようか。アンタが飲み込んだ、その莫大な『重み』を」


重罪おもつみ万石圧ばんごくおし


朱音の影が、保則の影と同化した、その瞬間。


「ぐ、お……?」


保則の言葉が途切れた。 彼の顔色が瞬時に土色に変わり、脂汗が滝のように噴き出す。


「な、なんだ……体が……息が、でき……」


ミシミシ、ミシミシ。 頑丈なひのき造りの輿が、悲鳴を上げ始めた。 保則の体そのものが、鉛の塊に変貌したかのように重力を増していく。


「や、やめ……たすけ……」


バキバキバキッ!!


轟音と共に輿が圧壊した。 支えていた屈強な男たちが、あまりの重さに腕を折られ、悲鳴を上げて逃げ惑う。 輿の残骸と共に地面に投げ出された保則は、そのまま止まらなかった。


ズズズズズ……ッ!


「ぎ、ぎゃあああッ!! あ、あばら、が……ッ!!」


地面が、保則の形に深く、深く沈んでいく。 まるで目に見えない巨人の指で押し込まれているかのように、彼は土の中へとめり込んでいく。 自身の背負ったごうの重さが、物理的な質量となって彼を押し潰しているのだ。


「ひ、ひぃぃッ! 国司様が沈んでいく……ッ!」


護衛たちは武器を放り出し、蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。 あとには、地面に深く埋まり、虫の息となった保則だけが残された。


朱音はクレーターのふちに立ち、沈んだ保則を冷ややかに見下ろした。 そして、その沈み具合(深さ)を目で測るように確認し、淡々と言った。


「……随分と深く沈んだね。この深さ、米に換算して一万石ってところか」


彼女はナユタの方を向き、悲しげに眉を寄せた。


「あいつ一人で、一万人が一年食えるだけの量を奪ってたんだよ。……重すぎて、地面も支えきれないわけだ」

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