第46話:密告
町の中は活気に溢れていたが、ナユタたちの心は休まらなかった。
安宿の一室を借り、息を潜める。
窓から外を見下ろすと、黒装束の検非違使たちが数人単位で町を巡回しているのが見えた。
「完全に包囲されてるね」
朱音が腕を組んで壁にもたれる。
「町から出る道は全て封鎖されているはずだ。あの景虎って男、本当に機械みたいに隙がない」
彼らはしらみつぶしに宿や民家を捜索している。ここが見つかるのも時間の問題だった。
その時、廊下からヒソヒソという足音と話し声が聞こえた。
「間違いない。あの三人だ。役所に知らせれば、莫大な報奨金が出るぞ」
宿の主人だ。
ナユタは舌打ちをした。
正義や悪など関係ない。ただ今日の生活を豊かにするための金銭。その欲の前では、善良な一般市民でさえ、簡単に密告者となる。
景虎は、手配書に破格の懸賞金をかけることで、この町の住人すべてをナユタたちの「監視者」に変えていたのだ。
「行くよ、窓からだ」
ナユタの指示で、三人は窓を開け、裏路地へと飛び降りた。
直後、部屋の扉が乱暴に蹴破られ、完全武装の兵士たちが雪崩れ込んできた。
「逃げたぞ! 追え!」
銅鑼の音が鳴り響き、町中が騒然となる。
裏路地を走る三人の前に、次々と黒い影が立ちはだかった。
「そこまでだ」
路地の奥から、静かな、しかし絶対的な冷気を持った声が響いた。
景虎だ。
彼は刀を抜くこともなく、ただそこに立っているだけで、巨大な壁のように退路を塞いでいた。
「貴様らが関所の役人を買収することすら、計算の範囲内だ。町の中に入れたのは、ここなら貴様らが大規模な破壊を躊躇するからだ」
景虎の背後には、隙間なく陣形を組んだ兵士たち。
そして路地の屋根の上には、弓を引き絞った射手たちが立ち並んでいた。
「詰みだ。大人しく投降しろ」
一切の感情を交えない、ただ事実だけの宣告。
朱音が前に出ようとするが、ナユタがそれを手で制した。
「朱音さん、力は使わないで。……矢の雨が降れば、この路地の周囲の家にも被害が出る」
「でも……!」
「大丈夫だ。彼らは『法』に従っている。なら、その法を利用する」
ナユタはゆっくりと前に歩き出し、景虎と対峙した。




