表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/68

第45話:潜伏

雪崩による足止めは、景虎たちのような熟練の追跡者に対しては、ほんの半日の猶予しか生み出さなかった。

雪山を抜け、三人は関東有数の大きな宿場町へとたどり着いた。

ここを越えれば、都へ続く主要な街道に出る。だが、その入り口である関所を見て、ナユタは顔をしかめた。


「もう手配書が回ってるのか」


関所の壁には、ナユタと朱音の人相書きが張られていた。

罪状は「凶悪な山賊の頭目」および「国家反逆」。驚くべき速さだ。景虎が伝令の早馬を走らせ、先回りして網を張ったのだ。


「どうする? 力ずくで突破するか?」


朱音が拳を握るが、ナユタは首を横に振った。


「ダメだ。町人が大勢いる場所で暴れたら、怪我人が出る。景虎はそれも計算してるんだ」


彼らには「無関係な民を傷つけない」という枷がある。感情を持たない景虎の部隊にとって、それは付け入るべき最大の隙だった。


ナユタは手持ちの布でスイの長い髪を隠し、粗末な笠を深く被らせて男の子に見えるよう変装させた。朱音も着物の裾をまくり、荷運びの女を装う。

列に並び、順番を待つ。


「おい、そこの三人。笠を取れ」


関所の役人が鋭い声をかけた。

手配書と見比べる役人の目が、ナユタの顔に止まる。


「お前……人相書きの男に似ているな」


周囲の空気が張り詰めた。兵士たちが槍を握り直す。

ナユタは極めて自然な動作で、懐から数枚の銅銭を取り出し、手形の下に隠して役人に差し出した。


「お役人様。私たちはただのしがない薬売りです。妹が流行り病にかかっておりまして……あまり顔を見せたくないのです」


役人は銅銭をチラリと見た。

その瞬間、スイがナユタの背中を指でトントンと叩いた。合図だ。


「この人、すごく欲張りの匂いがする。袖の中に、他の人から巻き上げたお金がいっぱい入ってる」


スイの小さな囁き声。

ナユタは役人の目を見て、さらに低く、凄みのある声で言った。


「その袖の中の『通行料』……上役に知られたら、首が飛ぶのはどちらでしょうね」


役人の顔色が変わった。

ナユタたちが何者かは分からないが、自分の不正を瞬時に見抜かれたことに動揺したのだ。ここで騒ぎになれば、自分の懐に入れた裏金まで調べられかねない。


「……チッ。とっとと行け! 病人を町に入れるな!」


役人は銅銭を素早く袖に隠し、ナユタたちを追い払うように手を振った。

三人は無言で頭を下げ、関所を通り抜けた。

人間の欲と保身。それが、完璧な法を執行するはずのシステムの、小さなほころびだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ