第41話:官法
「下がってて、ナユタくん!」
朱音が前に出る。
兵士たちの刃を素手で弾き返し、重い打撃で吹き飛ばす。
だが、兵士たちは悲鳴一つ上げず、倒れた仲間の隙間を埋めるように次々と連携して襲いかかってくる。
「チッ……気味が悪いね。人形みたいだ」
「彼らは『法』の刃だ。個人の感情などとうに捨てている」
景虎が、ゆっくりと刀を抜いた。
その刀身には、装飾一つない。ただ人を斬るためだけに研ぎ澄まされた、冷徹な鋼だ。
「アンタも感情がないわけ? ……なら、確かめてあげるよ」
朱音の瞳が蒼く光る。
相手がどれほど冷静を装っていても、理不尽な暴力を振るう者には必ず「罪の意識」や「悪意」がある。それを重量に変換するのが彼女の能力だ。
「アンタが奪ってきた命の重さ。……その身で知りな」
朱音が景虎に手をかざす。
空間が歪み、不可視の圧力が景虎に襲いかかるはずだった。
だが。
「……っ!?」
朱音は目を見開いた。
景虎は、平然と立っていた。彼にかかった重力は、せいぜい小石を乗せた程度。全く効いていない。
「な……んで……」
「これが貴様の妖術か。……他愛もない」
景虎が一歩踏み込む。
その動きは風のように速く、朱音は辛うじて身を捩って刃を避けたが、着物の袖が鋭く切り裂かれた。
「朱音さん!」
ナユタが叫ぶ。
朱音の能力が効かない。そんなことは初めてだった。
「なぜ効かないか、教えてやろう」
景虎は刀を正眼に構え、無表情のまま言った。
「私の行動はすべて、国家の安寧と法に基づくもの。そこに私利私欲も、罪悪感も、悪意もない。……ただ『正しさ』だけがある」
朱音の能力は、相手の「罪」に共鳴する。
だが、景虎のように、己の行動を「絶対の正義」であり「法律」だと微塵の疑いもなく信じ切っている者に対しては、反発するべき「罪の意識」が存在しないのだ。
悪意のないシステムそのもの。それが彼らだった。
「……厄介な奴」
朱音は額に汗を滲ませた。
雪山での鉄毒のダメージがまだ残っている上に、能力が通じない純粋な武力の達人。
最悪の相性だった。




