第40話:刺客
雪山を越えた三人は、寂れた宿場町でようやく一息ついていた。
朱音の体調も戻りつつあるが、まだ本調子ではない。
ナユタは、囲炉裏の火をいじりながら、懐の文箱に入っていた書状の重みを感じていた。
「……あにさま」
スイが、窓の外をじっと見つめて言った。
「鳥が、飛んでない。……風の音が、死んでる」
その言葉と同時だった。
宿の障子が、音もなく四方から開け放たれた。
飛び込んできたのは、野盗や山賊ではない。黒装束に身を包み、統一された武具を持つ十数人の男たち。
彼らは一切の雄叫びも上げず、機械のような正確さでナユタたちを取り囲んだ。
「動くな。国賊ども」
男たちの中から、一人の武将が進み出た。
冷たい鉄のような瞳を持った男。身につけているのは、朝廷の治安維持を司る検非違使の正式な鎧だ。
男の名は、景虎。
「金目当てじゃないね。……お役人が何の用?」
朱音がナユタとスイを庇うように前に出る。
景虎は朱音の挑発に乗ることなく、淡々と告げた。
「貴様らが厳鉄から奪った書状、そしてそこにいる『娘』を回収しに来た」
景虎の視線が、スイを射抜く。
「賀茂の血を引く生き残り。……忌み子として処分されたはずが、運良く生き延びていたようだな」
スイの肩が、ビクンと跳ねた。
ナユタは驚いてスイを見た。孤児だと思っていた彼女が、都の有力貴族、賀茂氏の血縁だというのか。
そして、あの書状の紋。
「……彼女は渡さない」
ナユタは立ち上がり、スイの手を強く握った。
「この子は僕たちの家族だ。あんたたちみたいな、血も涙もない連中に渡すものか!」
「血も涙も不要だ」
景虎は、感情の読めない声で言った。
「私は法の執行者だ。私情は挟まない。ただ、国家の不利益となる要素を排除するのみ。……やれ」
景虎の短い命令で、黒装束の兵士たちが一斉に斬りかかってきた。
これまでのならず者とは違う。訓練された、殺戮のプロフェッショナルたちだ。




