第36話:偽証
「だ、黙れ! 鬼の世迷い言だ!」
豪山は顔を真っ赤にして叫んだ。
「これを見ろ! 私が討ち取った鬼の角だ!」
彼は腰の袋から、黒い角のようなものを取り出した。
だが、朱音が冷ややかに言った。
「それ、牛の骨を削って炭で塗っただけだよね。……工作が雑なんだよ」
「な……ッ!?」
朱音の指摘に、最前列の村人がざわめく。
「確かに、なんか塗料の匂いが……」「そういえば、豪山様が戦ってるところ、誰も見たことないぞ……」
疑念は伝染する。
熱狂が冷め、代わりに騙されていたことへの怒りが広がり始めた。
「ええい、うるさい! 問答無用だ! 焼き殺せぇぇッ!」
豪山は逆上し、自ら松明を薪に投げ込もうとした。
論理が通じないなら、暴力で口を封じる。それが彼のやり方だ。
「……軽いね」
朱音の声が、広場に響いた。
「アンタの正義も、その弓も、全部ハリボテだ。……中身がないから、すぐに燃える」
朱音が踏み込む。
豪山が剣を抜こうとするが、遅い。
「アンタが積み上げてきた『嘘』の山。……その重さ、アンタの膝で支えられるかな?」
【重罪・偽証圧】
ズンッ!!
豪山の体が、見えない力で地面に叩きつけられた。
彼が纏っていた煌びやかな鎧が、急激に質量を増したかのように彼を押し潰す。
「ぐ、が……ッ!? 重い……鎧が……動かん……ッ!」
「それは鎧の重さじゃない。アンタが『鬼』だと偽って殺してきた、無実の人たちの恨みの重さだよ」
朱音は見下ろした。
「アンタは英雄になりたかったんだろ? ……なら、その重い罪を背負ったまま、一生地面に這いつくばって生きな」
「た、助けてくれ……! 金ならある! 村の連中から巻き上げた金が山ほど……!」
豪山は口を滑らせた。
決定的な自白。
それを聞いた群衆の怒りが爆発した。
「やっぱり金目当てだったのか!」
「俺たちの家畜を返せ!」
「サヨちゃんを返せ!」
村人たちが柵を乗り越え、動けない豪山に殺到する。
もはや朱音が手を下すまでもない。
彼は自らが煽った集団心理の炎に、今度は自分が焼かれることになったのだ。
「……行こう」
ナユタたちは、混乱する広場を後にした。
サヨは家族の元へ駆け寄り、抱き合って泣いている。
彼女の疑いは晴れた。
「あにさま」
スイが、ナユタの手を握った。
「あの人(豪山)、最後は本当の鬼みたいな顔してた」
「そうだね」
ナユタは頷いた。
角が生えているから鬼なのではない。
人の心を捨て、欲望のために他者を踏みにじる者こそが、本当の鬼なのだ。
三人が村を出ると、空には厚い雲が垂れ込めていた。
だが、その隙間から射す一筋の光が、次の道を照らしていた。




