第35話:捏造
牢の中は湿っぽく、カビ臭かった。
ナユタ、朱音、スイ、そして火刑台から引きずり下ろされた娘・サヨの四人が閉じ込められている。
「……すみません。私のせいで」
サヨが泣きながら謝った。
彼女はただの村娘で、豪山の言い寄りを断っただけで「鬼憑き」の汚名を着せられたのだという。
「あいつ、英雄なんて嘘っぱちだ」
ナユタは鉄格子を掴んで言った。
「自分で災いをでっち上げて、解決したふりをして金を巻き上げている。……マッチポンプだ」
スイが、牢の床に落ちていた小さな木片を拾い上げた。
焦げ跡がある。
「……これ、豪山が持ってたお守りと同じ匂い。火薬の匂い」
「火薬?」
ナユタが木片を見る。
現代知識があるナユタには分かった。これは簡単な発火装置の残骸だ。
豪山は「鬼火」や「祟りのボヤ」を自演するために、火薬を使っていたのだ。
「なるほどね。自作自演のボヤ騒ぎを起こして、それを『鬼の仕業』と言いふらす。……で、適当な犯人を処刑して、解決料をふんだくるわけか」
朱音が呆れたように息を吐いた。
鬼を狩るのではなく、人間を狩って「鬼」に仕立て上げる。
それが英雄の正体だった。
「でも、どうやって出る? 明日の朝には処刑だ」
サヨが絶望的な声で言う。
朱音は牢の錠前を見つめ、ニヤリと笑った。
「物理的に壊すのは簡単だけど……それじゃ面白くない。あいつの化けの皮、衆目の前で剥がしてやらないとね」
「策があるの?」
「スイちゃん」
朱音はスイに向き直った。
「君の鼻と目、貸してくれる?」
スイは小さく頷いた。
彼女には見えている。豪山の鎧の隙間に隠された、どす黒い嘘の層が。
翌朝。
広場には、昨日以上の群衆が集まっていた。
四人は再び火刑台の前に引き出された。
「見よ! これぞ諸悪の根源! この者たちを焼けば、村に平和が戻る!」
豪山が松明を掲げる。
群衆が歓声を上げる。
その熱狂が頂点に達した時、ナユタが叫んだ。
「待て! 最後に一つだけ言わせてくれ!」
「往生際の悪い。……何だ」
「あんたが背負ってるその弓。……一度も使ったことがないだろう?」
広場が静まり返った。
豪山の眉がピクリと動く。
「……何を言う。私はこの弓で千の鬼を葬ってきた」
「嘘だ」
スイが一歩前に出た。
「その弓……弦が新しいまま。血の匂いもしない。……あんたが殺したのは、縛られた人間だけ」
「き、貴様……!」
「それに、あんたの懐」
ナユタが畳み掛ける。
「昨夜のボヤ騒ぎで使った火薬の残り、まだ入ってるんじゃないか?」
豪山が思わず自分の懐に手をやった。
その動揺を、群衆は見逃さなかった。
英雄の仮面が、少しずつズレ始めた。




