第34話:魔狩
峠を越えた先の宿場町は、異様な熱気に包まれていた。
祭りではない。もっと刺々しく、攻撃的な熱狂だ。
広場には巨大な柱が立てられ、薪が積み上げられている。火刑台だ。
「殺せ! 鬼を殺せ!」
「村を災いから守るんだ!」
群衆が石を投げている先に、後ろ手に縛られた一人の女性がいた。
ただの町娘に見えるが、額からは血が流れ、着物は引き裂かれている。
「……またか」
朱音が顔をしかめた。
この時代、日照りや凶作が続くと、人々はすぐにスケープゴート(生贄)を求める。
「誰かが鬼と通じているせいだ」と決めつけ、自分たちの不安を暴力で解消しようとするのだ。
「待ってください!」
ナユタが群衆をかき分けて飛び出した。
「その人が何をしたって言うんです! 証拠はあるんですか!」
「証拠ならある!」
群衆の中から、豪奢な甲冑を纏った男が現れた。
精悍な顔つきで、背中には巨大な破魔の弓を背負っている。
この一帯で名を馳せる鬼退治の英雄、豪山だ。
「私の『霊視』に狂いはない。この女の影には、鬼の紋様が浮かんでいる。……昨今の不作は、この女が山神を穢したからだ!」
豪山が断言すると、群衆は「豪山様が言うなら間違いない!」と盲目的に賛同した。
「影? そんなあやふやな……」
ナユタが反論しようとすると、スイがナユタの袖を強く引いた。
「……あにさま。あの人、嘘つき」
スイの目は、火刑台の娘ではなく、英雄・豪山を睨んでいた。
「あの人の弓……獣の血の匂いがする。鬼の血じゃない。……弱い動物をいじめた時の匂い」
「なんだと? 小娘、貴様にも鬼が見えるのか?」
豪山がスイを睨みつける。
その目には、正義の輝きなど微塵もない。あるのは、自分の権威を疑う者を排除しようとする、冷酷な計算だけだった。
「……ほう。見れば貴様らも怪しいな。特にその青い着物の女」
豪山が朱音を指差した。
「並外れた妖気を感じる。……貴様がこの女の親玉か?」
「へえ」
朱音は口の端を吊り上げた。
本物の鬼である彼女を前にして、偽物の英雄が吠えている。その滑稽さに、朱音の中の温度が氷点下まで下がった。
「面白いね。……私の正体を見抜けるか、試してみる?」
一触即発。
だが、数で勝る群衆が一斉にナユタたちを取り囲んだ。
ここで暴れれば、火刑台の娘も巻き添えになる。
「……捕らえよ! こやつらも同罪だ! 明朝、まとめて浄化してくれる!」
豪山の号令で、ナユタたちは網をかけられ、土蔵の牢へと連行された。




