第32話:連帯
ナユタたちは、源次の案内で長屋の片隅に身を寄せた。
夜になっても、谷の熱気は冷めない。溶鉱炉の不気味な赤色が、闇を照らしている。
「逃げようとする奴はいないんですか?」
ナユタの問いに、源次は乾いた笑いを漏らした。
「逃げる? どこへだ? ここにいるのは、重罪人か、売られてきた借金持ちだ。逃げても人別帳はないし、見つかれば即座に斬り捨てられる」
それだけではない。
この谷には、もっと残酷なシステムがあった。
「連帯責任だ。五人一組で管理され、一人が逃げれば、残りの四人が代わりに処罰される。……だから、互いに監視し合うんだ。隣の奴が逃げないようにな」
ナユタは言葉を失った。
鎖で縛る必要はない。
「仲間を殺したくない」という良心、あるいは「自分が殺されたくない」という恐怖を利用して、囚人同士がお互いを縛り付け合う。
完璧で、悪魔的な管理システムだ。
「……それを考えたのは、誰だ」
朱音が低い声で尋ねた。
「鉄鼠と呼ばれる代官だ」
源次は忌々しげに言った。
「あいつは鉄の重さを知らん。帳簿の上で数字をいじるだけで、俺たちを鉄屑みたいに使い潰す。……先月も、ノルマ未達の班が、見せしめに炉に放り込まれた」
炉に、人を。
ナユタの中で、静かな怒りが沸点を超えた。
それは激情ではない。この冷徹なシステムを破壊しなければならないという、冷たい使命感だった。
「……源次さん」
ナユタは顔を上げた。
「もし、その『連帯責任』がなくなったら……みんなで逃げる覚悟はありますか?」
「は?」
「全員で逃げれば、誰が誰の責任なんて言えない。この谷の労働者が一人もいなくなれば、困るのは代官の方だ」
「馬鹿を言うな! 数百人もいるんだぞ、どうやって……」
「策はある」
ナユタは、現代の知識――ストライキと暴動、そして集団心理のメカニズムを脳内で組み立てていた。
「朱音さん、スイ。……少し、大掛かりな仕掛けが必要だ」
朱音がふふと笑った。
「いいね。この汚い空気を、一気に入れ替えようか」




