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第3話:契約

「……え、あ、あの……?」


ナユタは状況が飲み込めず、呆然としていた。 一瞬前まで殺されそうになっていたと思ったら、謎の美少女が現れ、男たちを退け、今は心配そうに自分を覗き込んでいる。


「あ、あなたは……?」 「私? 私は朱音。昔の人は『酒呑童子』なんて呼んでたけど」


さらりと、とんでもない名前が出た。 酒呑童子。 日本最強の鬼として伝説に残る存在。 ナユタは反射的に身構えた。


「お、鬼……!? じゃあ、僕も……」 「安心して。私は君を傷つけたりしない」


朱音はナユタの手を取ると、泥で汚れた袖をそっと払った。 その仕草は丁寧で、まるで壊れ物を扱うようだった。


「この時代にはね、君みたいな人間はもういないの。みんな諦めて、心が枯れてしまってる。でも君は違った」 「違わなくなんて……僕はただ、怖くて……」 「怖くても動いたじゃない。それがすごいことなんだよ」


朱音は真っ直ぐにナユタを見た。 その瞳には、一点の曇りもない純粋な称賛があった。


「君のその正義感、すごく希少なの。私、君のその魂が理不尽に踏みにじられるのを見たくない。……だから」


彼女は少しはにかむように、でも力強く言った。


「私が君の守護鬼になる。その代わり、君はずっとそのままでいて。君が真っ直ぐ前を向いてくれるなら、私は誰にも負けないから」


これが、契約だった。 血判も誓紙もない。ただ、互いの魂の在り方に惹かれ合っただけの、静かな契約。


ナユタは、逃げ去った男たちの足跡を見た。そして、涙を流して拝んでいる老婆と少女を見た。 自分が飛び出さなければ、彼女たちは助からなかった。 そして朱音がいなければ、自分は死んでいた。


一人では無力な理想論も、二人なら現実に変えられるかもしれない。


「……ありがとう、朱音さん。君がいなかったら、守れなかった」 「ううん、礼を言うのは私の方だよ」


朱音はふわりと笑った。 それは鬼の笑みではなく、年相応の少女の屈託のない笑顔だった。


「さあ行こう、ナユタくん。君の行く道は、私が切り開くから」


彼女はナユタの手を引き、歩き出した。 その背中は頼もしく、そしてどこか楽しげだった。


泥にまみれた平安の都。 理不尽な暴力と、冷酷な運命が支配する世界。 それでも、ナユタの足の震えはもう止まっていた。 隣には、最強のパートナーがいる。


二人の世直し旅が、ここから始まった。

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