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第28.5話:贈答

ちょっと趣向を変えた番外編です

読んでくれている皆様、ありがとうございます

「はい、カットー!」


ナユタが手を叩くと、それまで広がっていた平安時代の荒野が、急に現代的なキッチンスタジオへと切り替わった。 カチンコを持ったナユタが、カメラ(あなた)に向かって苦笑する。


「えー、読者の皆さん。いつも重苦しい旅に付き合ってくれてありがとうございます。今日は2月14日、バレンタインデーということで……特別企画です」


「……なんで私が、こんなフリフリのエプロンしなきゃいけないわけ?」


隣で不満げに唸っているのは、朱音だ。 いつもの着物の上から、ピンク色のエプロンを無理やり着せられている。手にはボウルと泡立て器。その顔は真っ赤だ。


「似合ってるよ、朱音さん。すごく可愛い」 「うるさい! 調子に乗ると『重罪』でチョコごと圧殺するよ!?」


朱音が泡立て器を構える。その腕力で、ボウルの中の生クリームが一瞬でバターになりそうだ。


「あねさま、これ、見て」


足元でスイが、小さな椅子に乗って作業台を覗き込んでいた。 彼女も小さなエプロンをつけている。 その手元には、湯煎されたチョコレート。


「……すごく、いい匂い。甘くて、優しい匂い」


スイが目を輝かせる。 普段は「人の嘘」や「悲しみ」の匂いばかり嗅いでいる彼女にとって、カカオの香りは新鮮な驚きのようだ。


「よし、じゃあみんなで作ろうか。いつも読んでくれている画面の前の『あなた』のために」


ナユタの号令で、調理が始まった。


「そこ! 混ぜ方が雑!」 「だって、この固まり(カカオマス)、硬いんだもん! 握力で砕いた方が早くない?」 「ダメだよ朱音さん! 愛情込めなきゃ!」


キッチンは戦場だった。 ナユタがレシピを確認し、スイが丁寧に型に流し込み、朱音が力技で障害を排除する。


その時、スタジオの隅から視線を感じた。 床から半分だけ頭を出している巨漢――厳鉄げんてつと、米俵に埋まったままの五兵衛ごへいだ。 彼らは本編で成敗されたまま、出番を待っていたらしい。


「お、おい……俺たちにも、あるんだろうな?」 「チョコ……くれぇ……」


悪役たちの情けない懇願。 朱音は冷ややかな目で見下ろした。


「アンタたちには『カカオ99%』の激苦チョコがお似合いだよ。人生の苦みを噛み締めな」 「ひどいッ!?」


泣き崩れる悪役たちに、スイがトコトコと歩み寄った。 その手には、失敗して少し焦げたチョコの欠片が。


「……あげる」 「お、お嬢ちゃん……!」 「義理、だけど」


スイの無慈悲な一言に、悪役たちは「義理でもいい!」と涙を流してチョコにむしゃぶりついた。平和だ。


数時間後。 三つの箱が完成した。 ナユタたちが、カメラの前に並ぶ。


まずはナユタが一歩前へ出る。 彼が差し出したのは、シンプルだが丁寧にラッピングされた、正統派のトリュフだ。


「受け取ってくれますか? いつも僕たちの旅を見守ってくれて、本当にありがとう。君の視線があるから、僕たちは理不尽な世界でも前を向けるんだ。……これ、僕の精一杯の感謝です」


ナユタの爽やかな笑顔。 続いて、スイが小さな箱を両手で差し出す。 中には、動物の形をした(少し不格好だが愛らしい)クッキーチョコが入っている。


「あのね……あにさまとあねさまを、好きでいてくれてありがとう。あなたが読んでくれると、世界の色が少しだけ明るくなるの。……これ、甘いよ。食べて」


スイの純粋な瞳が、画面越しにあなたを見つめる。 そして最後。 朱音が腕を組み、そっぽを向きながら、少し乱暴に箱を突き出した。 中身は――なんと、ハート型。しかも特大サイズで、ずっしりと重い。


「……勘違いしないでよね。余った材料で作っただけだし」


朱音の頬が、桜色に染まっている。 彼女はチラリとカメラを見ると、意を決したように言った。


「でも……アンタがいないと、ナユタくんも張り合いがないみたいだし。……悔しいけど、アンタも私たちの『共犯者』って認めてあげる」


彼女は箱をグイッと押し付けた。


「ほら、受け取りなよ。……私の作ったチョコなんだから、味は保証する。その代わり、残したら承知しないからね?」


不器用なウィンク。 それが、最強の鬼が見せた、精一杯のデレだった。


「じゃあ、本編に戻ろうか。まだまだ旅は続くけど……」


ナユタがカメラに向かって手を振る。


「これからも、僕たちと一緒に旅をしてくれますか?」


三人の笑顔が、フェードアウトしていく。 画面の前のあなたの手元には、甘くて、少し重くて、温かい記憶が残ったはずだ。


Happy Valentine's Day!

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