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第28話:迷路

「ワンパターンではない、深みのある悪」「朱音の可愛らしさ」を意識し、物語を進めます。 今回の舞台は、これまでの「搾取・暴力」とは異なる、**「優しすぎる支配」**という名の牢獄です。


第28話から第30話を執筆します。


第28話:迷路

塩を手に入れた三人は、さらに北へと進んでいた。 だが、山道は険しく、いつしか道を見失っていた。


「……ねえ、ナユタくん」


先頭を歩いていた朱音が、不機嫌そうに振り返った。 その手には、道端で摘んだ野花で作った冠が握られている。さっき休憩中にスイと一緒に作ったものだ。似合わないことをして照れ隠しをしているのか、少し頬が赤い。


「この道、さっきも通らなかった?」 「え? まさか。地図だと真っ直ぐ……」 「地図なんてアテにならないよ。ここ、結界が張られてる」


朱音は花冠をスイの頭に乗せると、鋭い目で周囲の木々を睨んだ。


「物理的な迷路じゃない。認識を歪める術式だね。……へぇ、面白いことするじゃん」


朱音が楽しげに笑う。 強敵の予感にワクワクしている戦闘狂の顔だ。 だが、その足元を一匹の野ウサギが横切った瞬間。


「ひゃっ!?」


朱音が可愛らしい悲鳴を上げて飛び退いた。


「な、なによ今の!?」 「ただのウサギだよ、朱音さん」 「し、知ってるよ! 急に出てくるから驚いただけだし!」


朱音は真っ赤になって早口でまくし立てた。 最強の鬼が、小動物に驚く。 ナユタとスイが顔を見合わせてクスッと笑うと、朱音は「笑うな!」と二人の頭を小突いた。


その時、霧が晴れ、目の前に忽然と美しい集落が現れた。 棚田が広がり、水車が回り、家々からは楽しげな笑い声が聞こえる。 だが、そこには奇妙な「違和感」があった。


「……あにさま」


スイがナユタの袖を引いた。


「ここ、誰も『怒ってない』」 「え?」 「悲しんでないし、苦しんでもない。……みんな、ニコニコしてる。ずっと」


それは理想郷のように聞こえる。 だが、スイの声は震えていた。 感情がないわけではない。負の感情だけが、きれいに切り取られているような不自然さ。


「ようこそ、迷い人たちよ」


村の入り口に、一人の女性が立っていた。 三十代半ばほどの、慈悲深い微笑みを浮かべた美女、カガリだ。 彼女は武器も持たず、ただ両手を広げてナユタたちを迎えた。


「ここは『憂いなき里』。外の世の苦しみに疲れた者たちが集う、最後の楽園です」

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