第27話:崩落
「やれッ!」
兵士たちがナユタたちに襲いかかる。 だが、朱音は動かない。 彼女はゆっくりと右足を上げ――関所の地面を、思い切り踏み抜いた。
ドンッ!!
衝撃が走る。 だが、それはただの足踏みではなかった。 スイが見抜いた通り、この関所の地下には、奪った塩を隠しておくための巨大な「隠し倉庫(空洞)」があったのだ。
メリメリメリッ……!
「な、なんだ!?」
地面に亀裂が走り、兵士たちの足場が崩れ始めた。 隠していた悪事が、物理的な「穴」となって彼らを飲み込もうとしている。
「う、うわあああッ!」
兵士たちが次々と穴に落ちていく。 多治比もまた、塩の山と共にバランスを崩した。
「き、貴様らァッ! 私の塩が! 私の城が!」
多治比は必死に櫓の柱にしがみついた。 だが、朱音はその柱に手をかけ、冷ややかに告げた。
「アンタが積み上げたその法律。……随分と重そうだね」
朱音の瞳が蒼く輝く。
「民から吸い上げた塩辛い涙の重さ。支えきれるか試してあげる」
【重罪・塩柱】
朱音が柱を軽く叩く。 その瞬間、多治比がしがみついている櫓全体に、とてつもない負荷がかかった。 彼が奪ってきた塩の質量。それが「罪の重さ」として換算され、関所そのものにのしかかる。
バキバキバキィィィッ!!
「ひ、ぎゃあああッ!?」
櫓が悲鳴を上げ、粉々に圧壊した。 多治比は瓦礫と塩の雪崩に巻き込まれ、自らが掘った地下倉庫の底へと叩き落とされた。
ズズズズン!!
轟音と共に、関所は完全に崩落した。 後には、瓦礫の山と、その下から聞こえる多治比たちの情けない呻き声だけが残った。
「……道が開いたね」
土煙が晴れると、関所があった場所は更地になっていた。 地下から溢れ出した大量の塩が、白い砂浜のように広がっている。
「塩だ! 塩があるぞ!」
並んでいた人々が歓声を上げ、塩に駆け寄る。 もう誰も止める者はいない。 それは略奪ではない。奪われた生命力の回収だ。
「お婆さん、これ」
ナユタは、足元に落ちていた手付かずの塩袋を拾い、さっきの老婆に手渡した。
「あ、ありがとう……ありがとう……!」
老婆は涙を流してナユタの手を握りしめた。 その手の温かさが、ナユタの胸にじんわりと広がる。
「……行こうか」
ナユタたちは、人々が塩を分け合う姿を背に、再び歩き出した。 関所は消えた。だが、この国のどこかには、まだ無数の「勝手関」が存在するだろう。 旅は終わらない。 けれど、ナユタたちの背嚢には、老婆がお礼にと持たせてくれた、一握りの塩が入っていた。 それはどんな高価な宝石よりも、今の三人にとっては輝いて見えた。
「……しょっぱいね」
夜、野営でスープを飲んだスイが、嬉しそうに呟いた。 その味は、生きている証そのものだった。




