第26話:独占
「次は貴様らか。荷を開けろ」
役人が槍の柄でナユタを小突いた。 ナユタは荷物を下ろさず、役人の目を真っ直ぐに見返した。
「さっきの塩、どうして捨てたんですか」
「あ?」
「生活に必要なものです。不正な商売をしているわけでもない、ただのお婆さんじゃないですか」
役人は面倒くさそうに鼻を鳴らした。
「規則だと言っただろう。許可なき塩は『毒』と同じだ。市場の秩序を乱す」
「秩序? あんたたちが値段を吊り上げているせいで、みんなが苦しんでいるのが秩序ですか!」
ナユタの声が響く。 周囲の旅人たちが、ハッとしてナユタを見た。 誰もが思っていても、怖くて言えなかった言葉だ。
「……貴様、何者だ」
役人の目がすぅっと細くなり、殺気を帯びた。 奥の詰所から、武装した兵士たちがわらわらと出てくる。 その数、十人以上。 中央には、絹の着物を着た肥満体の男――この関所を支配する郡司、**多治比**がいた。
「秩序を乱すネズミが紛れ込んだようだな」
多治比は、没収した塩の山に腰掛け、ナユタを見下ろした。
「若造。お前は勘違いをしている。私は彼らを守っているのだよ。安い塩が出回れば、正規の商人が潰れる。そうなれば、安定した供給が途絶えるだろう?」
「詭弁だ」
朱音がナユタの横に立った。
「アンタが守ってるのは、自分の懐だけだろ。……その塩の山、全部『私物』にする気だね?」
多治比の眉がピクリと動いた。 図星だ。 没収という名目で奪い、それを裏で高値で売りさばく。それが彼らの錬金術だ。
「……不愉快だ。斬り捨てろ」
多治比が扇を振る。 兵士たちが一斉に刀を抜き、ナユタたちを取り囲んだ。
「スイ、下がってて」
ナユタがスイを庇う。 だが、スイは動かなかった。彼女は足元の地面をじっと見つめ、何かを探るように視線を巡らせていた。
「あにさま、あねさま」
スイが、兵士たちの足元を指差した。
「そこ……『空っぽ』だよ」
「え?」
次の瞬間、朱音がニヤリと笑った。
「なるほど。……スイちゃん、ナイスアシスト」




