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第25話:塩飢

山岳地帯を進む三人の足取りは重かった。 食料はある。水もある。だが、何かが足りない。 体が鉛のように重く、思考が鈍る感覚。


「……力が出ないね」


朱音でさえ、額に汗を浮かべていた。 原因は分かっている。塩だ。 内陸部に入ってからというもの、まともな塩が手に入らない。村を訪ねても、村人たちは顔色が悪く、わずかな塩を舐めるようにして飢えを凌いでいた。


「次の関所を越えれば、塩の産地からの街道に出るはずだけど……」


ナユタが地図代わりの木簡を確認する。 だが、その関所こそが、この地域の「栓」となっていた。


峠の頂上。そこに、頑丈な柵とやぐらで固められた関所があった。 国が管理する正式なものではない。地元の郡司ぐんじが私的に設けた、いわゆる「勝手関」だ。


「止まれ! 荷を改める!」


関所の前には、長蛇の列ができていた。 行商人や旅人、近隣の農民たちが、荷物をひっくり返されている。


「おい、これはなんだ」


役人が、老婆の背負い籠から、小さな布袋をつまみ上げた。 中には、灰色に濁った粗末な塩が入っている。


「お、お役人様……それは、孫のために……」 「『抜け荷』だ。この関を通る塩は、郡司様が認めた公認の商人から買ったものでなければならん」


役人は無表情で、その塩を地面にぶちまけた。


「あっ……!」


老婆が悲鳴を上げ、泥にまみれた塩を必死にかき集めようとする。


「規則だ。没収する」


役人は老婆を蹴り飛ばし、次の並んでいる者へ視線を移した。 ナユタの体温が一気に上がった。 これは検問ではない。塩の流通を独占し、価格を釣り上げるための「調整弁」だ。 塩を支配することは、命を支配することと同義だ。


「……ひどい」


スイが小さな声で呟いた。 彼女の目は、泥に溶けて消えていく塩と、老婆の絶望をじっと見つめていた。


「あにさま。……あの塩、すごくからい匂いがする」


「え?」


「味の辛さじゃないの。……作った人の、悔しい匂い」


スイには分かるのだ。 その塩が、どこかの海岸で、誰かが必死に海水を煮詰めて作った結晶であることが。 それが、こんな理不尽な理由で泥に還される悲しみが。


「……行こう」


ナユタは短く言った。 関所の役人たちに向かう足取りには、迷いはなかった。

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