第24話:対価
「なんだ、このアマ。俺に商売の説教か?」
五兵衛は扇子で朱音をあおぐ仕草をした。
「等価交換? 当たり前だ。俺は知恵を使って物を集めた。馬鹿な貧乏人はそれを持たねえ。だから高く売る。それが世の摂理だ」
「なるほど。知恵の重さが、値段になるわけだ」
朱音の瞳が、冷たく光った。
「なら、量ってあげるよ。アンタが蔵に詰め込んだ、その『欲望』の重さを」
【重罪・算盤】
朱音の指先が、五兵衛の懐にある大福帳(帳簿)を指した。 その瞬間。
「ぐ、おッ!?」
五兵衛の体が、いきなりくの字に折れた。 懐に入っている帳簿が、まるで鉛の塊になったかのように重くなり、彼を床に引きずり倒す。
「な、なんだ!? 何をした!?」
「アンタが吊り上げた米の値段。奪った太刀の差額。そして……人の命につけた値札の重さだよ」
朱音が一歩近づく。 それだけで、五兵衛にかかる重圧が増す。 彼の背中に、見えない米俵が何百個も乗っているかのように、床板がミシミシと悲鳴を上げる。
「お、重い……! 腰が……折れる……ッ!」
「アンタは言ったよね。持たざる者から搾取するのが摂理だって。……なら、持てないほどの重さを背負って潰れるのも、また摂理だ」
「ぎゃああああッ!! 金だ! 金ならやる! 全部やるから助けてくれぇぇッ!!」
五兵衛は顔をぐちゃぐちゃにして命乞いをした。 だが、朱音は冷淡に言い放った。
「取引終了。……返品は受け付けないよ」
バキバキバキッ!!
床が抜け、五兵衛は蔵の地下へと落下していった。 彼が隠し持っていた不正な証文や、贋金の山の中に埋もれ、自らの欲望の重さで身動きが取れなくなる。 死にはしない。だが、一生、その重い体を引きずり、地を這って生きることになるだろう。
騒ぎを聞きつけた町人たちが、開け放たれた蔵になだれ込む。
「米だ! 米があるぞ!」 「俺の畑の権利書もここにあった!」
人々は歓喜し、奪われていた財産を取り戻していく。 それは略奪ではない。正当な「返品」だった。
「……行こうか」
ナユタたちは、混乱に乗じて店を後にした。 手元には、五兵衛が隠していた「備前」の太刀と、少しの路銀だけ。 大儲けはできなかったが、町の人々の笑顔という、金では買えない対価は得られた。
「あにさま。あの太刀、どうするの?」
町を出てから、スイが尋ねた。 ナユタは、綺麗に研ぎ澄まされた刃を見つめ、言った。
「これは売らない。……僕たちの『守り刀』にするよ」
ただの棒切れではなく、真実を見抜く目を持ったスイが見つけた、本物の刃。 それは、これから先の過酷な旅路を切り開く、頼もしい相棒になるはずだ。
三人の影が、夕焼けの街道に長く伸びていた。




