第23話:暴利
わずかな銭で、安宿の相部屋と、固い握り飯を手に入れた。 だが、食堂の雰囲気は最悪だった。 地元の百姓たちが、どんよりとした顔で話し込んでいる。
「五兵衛の野郎、また米の値段を上げやがった……」 「塩もだ。先月の倍だぞ。これじゃ漬物も作れねえ」
どうやら、あの質屋の五兵衛は、この町の物流を牛耳る問屋の主でもあるらしい。 長雨や日照りを口実に、米や塩を蔵に隠し(買い占め)、値段を吊り上げているのだ。
「娘を……奉公に出すしかねえか……」
隣の席の男が、涙ながらに呟いた。 借金のカタに、五兵衛に娘を差し出せと迫られているらしい。 「奉公」とは名ばかりの、人身売買だ。
「……やり方が汚い」
ナユタは拳を握りしめた。 刀で脅す山賊よりもタチが悪い。 こいつは、法律のギリギリ内側で、生殺与奪の権を握り、笑顔で人を食い物にしている。
翌日。 ナユタたちは再び五兵衛の店を訪れた。 店先には、米を求める行列ができていたが、五兵衛は冷たく追い返していた。
「ないものはないんだよ! 欲しけりゃ、それなりの『誠意』を見せな!」
五兵衛の視線の先には、米俵の山が見える。 あるのに、売らない。 人々が飢えれば飢えるほど、値段が上がるのを待っているのだ。
「五兵衛さん」
ナユタが前に出た。
「昨日の太刀、返してもらえますか。取引は無しだ」
「はぁ? 何を言ってなさる。一度成立した商いだ、返せるわけねえだろう」
五兵衛は鼻で笑い、用心棒の浪人たちを呼びつけた。
「それに、お前さんたち。ヨソモノだね? ……怪しいな。役人に突き出されたくなければ、さっさと失せな」
脅し。 法と暴力、そして経済力。 すべてを持った「強者」の余裕が、そこにはあった。
「……スイちゃん」
朱音が小声で尋ねた。
「あの蔵の中、どうなってる?」
スイは目を閉じ、集中した。
「……お米と、お塩が、天井まで積んである。……あと、隠し部屋に、たくさんの証文。人が売られた証文」
「OK。十分だ」
朱音が、ゆらりと前に出た。 彼女は五兵衛の前に立つと、まるで世間話でもするかのように言った。
「ねえ、旦那。商売の基本は『等価交換』だよね?」




