表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/22

第21話:選別

「ごめんなさい……恨まないでくれぇッ!」


半狂乱の手下が振り回す鎌を、朱音が紙一重でかわす。 彼女は反撃しない。相手の体勢を崩し、軽く突き飛ばすだけに留めている。


「ナユタくん。分かってるよね?」


朱音の問いに、ナユタは頷いた。


「うん。……あいつらは、心が泣いてる」


ナユタは前に出た。 襲い来る手下たちの間をすり抜け、一直線に厳鉄を目指す。


「ほう? 命知らずなガキだ」


厳鉄が嗜虐的な笑みを浮かべ、金棒を構える。


「手前ぇ一人で何ができる? 俺はこの金棒で、百人の兵士を叩き潰してきたんだぞ!」 「あんたが潰してきたのは、兵士じゃない!」


ナユタは叫んだ。


「あんたが踏みつけにしてきたのは、逆らえない弱者の心だ! 部下を脅して、家族を人質にして……そんなことでしか威張れないあんたは、誰よりも小さい!」


「……あァ?」


厳鉄の額に青筋が浮かぶ。 図星を突かれた苛立ちと、虫ケラに説教された屈辱。 純粋な殺意が、ナユタ一人に収束する。


「死ねェッ!!」


豪風と共に、鉄塊がナユタの頭蓋めがけて振り下ろされる。 ナユタは動かない。避けない。 その目が、厳鉄の背後にある「影」を見据えていたからだ。


「……その生臭い殺意、しかと受け取ったよ」


ナユタの背後から、朱音が音もなく現れた。 彼女の手が、振り下ろされる金棒の側面へと、そっと添えられる。


「アンタが部下たちを縛り付けていた、その恐怖の鎖。……重かっただろうね」


朱音が囁く。 その瞬間、厳鉄の視界が反転した。


【重罪・断鎖だんさ


「ぐ、おォッ!?」


厳鉄の動きが止まった。 振り下ろしたはずの金棒が、空中で静止している。いや、違う。 重い。異常なほどに重い。 自慢の怪力で支えようとするが、金棒はびくともせず、逆に彼の手首をへし折る勢いで下へと沈み始めた。


ボキリ、バキィッ!


「ぎゃああああッ!?」


鈍い破砕音と共に、厳鉄の両手首があらぬ方向へ曲がった。 支えを失った巨大な鉄塊が、そのまま彼の胸板の上に落下する。


ドォォン!


「が、はっ……!?」


厳鉄は仰向けに倒れ、その上に金棒がのしかかった。 だが、地獄はここからだった。


「まだだよ。アンタが彼らに与えた『息苦しさ』も、味わいな」


朱音が冷たく見下ろす中、目に見えない何かが、倒れた厳鉄の体に巻き付いた。 それは、彼が部下たちを支配するために用いてきた「恐怖」そのものが、物理的な鎖となって具現化したものだった。


ギチチチチ……。


見えない鎖が、厳鉄の全身を締め上げていく。 ただ縛るのではない。万力のように、じわじわと肉に食い込み、骨を圧迫していく。


「あ、が……っ、や、やめ……息が……!」


厳鉄が狂ったようにもがく。 だが、もがけばもがくほど、鎖はさらに強く食い込む。 肋骨が一本、また一本と悲鳴を上げ始める。


メキョ、ベキィッ……!


「ひ、ぎぃぃぃッ! い、痛え! 痛えぇぇぇッ!! た、助けてくれ! 誰か、この鎖を外せぇぇッ!!」


彼は涙と鼻水にまみれ、自分がゴミのように扱ってきた部下たちに向かって助けを求めた。 だが、誰も動かない。彼らは恐怖と、それ以上の「因果応報」の光景に凍りついている。


「アンタの体、随分と頑丈にできてるね。……なかなか壊れない」


朱音は残酷なまでの冷静さで言った。


「だから、長く、たっぷり味わえるよ」


ギチチチ、メキメキメキ……ッ!


「あ、が、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……ッ!!」


鎖の圧力が限界を超えた。 金棒の下で、厳鉄の体が海老反りになり、肋骨が肺に突き刺さる。 喉から血の泡が吹き出し、絶叫が途切れた。 それでも「重み」は止まらない。 痙攣する厳鉄の体を、金棒ごと地面の泥の中へと、ゆっくり、ゆっくりと押し潰していく。


最後には、泥の中から突き出した金棒のだけが、墓標のように残された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ