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第18話:隠家

村の中は、奇妙なほど整っていた。 家々は古いが手入れが行き届き、畑の作物は豊かに実っている。 痩せこけた子供もいない。むしろ、ナユタたちが通りかかった村々よりも、はるかに豊かな生活があるように見えた。


「ここは非公式の『不輸ふゆの地』だよ」


案内された納屋で、ナユタは朱音に耳打ちした。


「税を納めていない。国に見つかっていないから、搾取されずに自分たちの収穫をすべて自分たちで食べられるんだ」


「なるほどね。だからこそ、外部の人間が怖いわけだ」


朱音は、格子の隙間から外の様子を窺っていた。 村人たちが遠巻きにこちらを見ている。 敵意というよりは、値踏みするような目だ。こいつらは「毒」か、それとも「益」か。


しばらくして、村の長老と数人の男たちが入ってきた。 簡単な食事――あわの飯と、干し魚が差し出される。 ナユタとスイは夢中でそれを食べたが、朱音は手をつけず、じっと相手を観察していた。


「……食うもん食ったら、話を聞こうか」


長老は穏やかな口調だったが、その手には硬いタコがあり、目には古傷があった。 ただの農民ではない。かつては武士か、あるいは戦乱を生き延びた荒くれ者だったのだろう。


ナユタは、自分たちがここに来るまでの経緯を話した。 人柱の儀式を止めたこと、追われていること、都へ向かっていること。 嘘はつかなかった。嘘をつけば、この長老には見抜かれる気がしたからだ。


「ふむ……。お尋ね者、というわけか」


長老は顎髭をさすった。


「ならば、ここを国司に密告するつもりはない、ということじゃな?」 「もちろんです。僕たちも捕まりたくない」


ナユタが答えると、わずかに安堵の空気が流れた。 だが、次の瞬間、長老の目が鋭く光った。


「しかしな。お前さんたちが密告しなくても、お前さんたちを追って役人がここまで来たらどうする?お前さんたちをここにかくまえば、足跡をたどって追手が来るかもしれん。……そうなれば、この村は終わりだ」


長老の言葉に、男たちが頷く。 彼らの論理は正しい。 村を守るためには、リスク(ナユタたち)を排除するのが一番確実だ。 ここで殺して埋めてしまえば、追手もここには気づかないかもしれない。


「……どうするつもり?」


朱音が低い声で尋ねた。威圧感はないが、部屋の温度が数度下がった気がした。


「わしらも鬼ではない」


長老は言った。


「だが、村の存亡がかかっておる。……悪いが、しばらくこの納屋にいてもらう。お前さんたちをどうするか、村の者と話し合うまでな」


納屋の戸が閉められ、外からかんぬきがかけられる音がした。 軟禁状態だ。 隙間から見える空には、一番星が光っていた。


「……やっぱり、殺されるのかなあ」


スイが星を数えながらつぶやく。 ナユタは自分にも言い聞かせるように声をかける。


「大丈夫。なんとか説得してみせるよ」


だが、どうやって? 彼らの恐怖を取り除く言葉など、今のナユタは持っていなかった。 平和に見えたこの村もまた、薄氷の上に立つ「仮初かりそめの楽園」だったのだ。

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