夜に 1
多少の邪心を持って、赤くなって俯く翔太を眺めていたセレアは、はっとした様子で、翔太を見ると、
「そう言えば、あなた、名前は?」
と、微妙に小首をかしげてみせた。
「名前?僕のですか?」
既にいっぱいになっている翔太の頭では、理解できない。
「他に誰がいるのよ。まぁ、私も、ブラックの事でいっぱいになっていで、気が付かなかったんだけどね。それで、あなた、名前は?」
片方の肩だけ窄めるセレア。
「僕、北原 翔太です。」
翔太は、セレアではなく、目の前で赤く火の粉を撒いている焚火を見ながら答えた。
「ん、と、キタハラでいいかしら?」
「あっ。翔太 北原で、翔太でいいです。」
「?まぁいいわ。ショウタね。」
「はい。」
「私は、セレア フランシア、セレアでいいわ。」
「ええっと、セレアさん?」
「さん、は、いらないわ。セレアでいいわ。」
「えっ?でも、、、。」
言いかけた翔太は、切れるかと思うほど細くなったセレアの目と、彼女の後ろに、稲妻でも走ったかと思えるピリッとした気配に沈黙。
「さん、は、いらないわ。セレアで、いいわね。」
いっそ、静かともいえるセレアの口調に、翔太は、恐怖しか感じなかった。
「わ、わ、わかりました。セレアで」
「そっ。」
セレアは、一転して、上機嫌な微笑を見せた。
ー しっ、死ぬかと思った、、、。 ー
ー さん、なんてつけられたら、如何にも年増みたいじゃない。 ー
同時に、目線を逸らして、外を向く二人だった。
微妙な雰囲気に包まれたとき、くー、と、セレアの腹が切ない音を響かせる。
丸くなった翔太の目に、真っ赤になったセレアが映った。
その、映ったセレアは、真っ赤な顔のまま、翔太を睨みつける。
「ショウタは、聞こえてない!!」
「うっ、うん。大丈夫。聞こえてない!」
セレアの勢いに、両手と頭を激しく振って翔太が答える。
セレアは、一瞬、何かを言いかけるが、横を向いた。
「しょうがないでしょ。ショウタのことがなけれは、日帰りの予定だったんだから。一応、獲物は探したのよ。でも、本当に、討伐されて、何にもいないんだもの。」
「なんだか、ごめんなさい。」
深々と頭を下げる翔太。
セレアは、もぅ、と、口の中で言うと、ため息をついた。
「そう言えば、ショウタは何も持ってないの?剣は持ってるみたいだけど、背負い袋は?」
「あっ!」
思い出した翔太は、急いで背負い袋を下し、中をのぞいた。
小難しい表情になる。
「どうしたの?」
セレアの声に、すまなそうに翔太が顔を上げた。
「干し肉みたいのがあるんだけど、転んだ時に潰したみたいで、ちょっと、、。食べれないことはないと思うんだけど、、、。」
セレアは、少し前のことを思い出して、あたふたと、顔を背けた。
「そっ、そう、まぁ、一日ぐらいは食べなくても大丈夫だけど、とりあえず出してみたら。」
「うん。」
翔太は、背負い袋を探って、一番、形がまともそうな干し肉を取り出し、セレアに見えるように差し出した。
「それなら、十分じゃないかしら。」
チラッと、干し肉を見ると、セレアが答えた。
「本当?なら、これ、セレアが食べていいよ。」
翔太が、体を少しセレアの方にずらし、腕を伸ばして干し肉を差し出すと、セレアは、ゆっくりと、焚火へ顔を向けた。
「べっ、別に、数があるならともかく、私は、一日ぐらいなら大丈夫だから、ショウタが食べなさいよ。ショウタの方が、よっぽど子供なんだから。」
「あっ。一応、二人分で明日の昼ぐらいまではあるよ。」
「えっ?そうなの?」
セレアの雰囲気に、さっと、明るさが加わる。
「うん。それに、その、、。助けてもらったお礼もあるし、あと、その、、人がいるところまで、、その、、送ってもらいたい、って言うか、ついていかせてもらいたい、と、言うか、、、。」
対して、翔太は、受け取ってもらうために適当に言い並べた内容が、とてもじゃなく、干し肉で対価になる内容ではないことに気が付き、声が小さくなっていった。
ー もしかして、内容、都合がよすぎない。あれ?これを断られたら、詰み、だよね。 ー
目に、懇願の色が宿る翔太。
「あーーーっと。」
セレアは、思ってもいなかった翔太の言葉に、多少、考えた。
ー どうも、手懐けたつもりで、保護者気分になってるみたいね。まぁ、言っている内容と、干し肉じゃあ、対価もへったくれもないけど、私も帰るし、手懐ける為と思えば、、、。 ー
まとめたセレアは、翔太の方を見た。
「わかったわ。それならもらうわ。ありがと。」
セレアは、嬉しそうに手を伸ばしてくる翔太から、干し肉を受け取った。
読んでいただき、ありがとうございます。
よければ評価をお願いします。




