転生者 2
「えっ?」
翔太の思いつく答えは、他になかった。
ー どうして? ー
ただ混乱するだけの翔太。
セレアは、その翔太を少しの間見つめると、浅く息を吐いた。
「どうして、って、そのままの表情ね。私も、そこまでわかりやすいのは初めて見たわ。」
「つっ。」
苦笑交じりに話すセレアから、急いで目を離し、横を向いてみる翔太。
「最初は、何にも敵が出ないのをいいことに、森の奥まで入ってきた馬鹿かと思っていたんだけど、その子、ブラックでいいかしら、その子がフェンリルだ、って気が付いたときに、おかしい、と、思ったの。」
「はぁ。」
翔太に、講義でもするような口調になったセレアに、相槌を打つだけの翔太。
と、口調が変わるセレア。
「あっ。そうだ、その子、ブラックを撫でさせて欲しいんだけど、言ってもらえない?」
微妙に上目遣いに、片目をつぶって見せるセレアの魅力に、抗うような意志力は、当然全く持っていない翔太、真っ赤になりながら、撫でているブラックを見る。
「ごめん。彼女が撫でさせて欲しい、って、言ってるんだけど、いい?」
頭を撫でていた手が止まって、声をかけられたブラックは、つぶっていた丸い目を見開いて翔太を見ると、
「あん」
と、セレアの方へ走り出した。
「ありがと。」
袂に来たブラックを、両手で抱き上げ抱きしめるセレア。
「んっ。かわいい!」
パッと、辺りが明るくなったように思えるほど輝かしい微笑を浮かべたセレアは、勢いよく、ブラックに頬ずりをする。
「この子ったら、私が撫でたり、捕まえようとすると、サッと離れて、あなたの傍から離れようとしなかったのよね。」
可憐に華やぐセレアを、ボーっと、頭に花を咲かせて眺めていた翔太に、セレアが頬ずりをしながら、鋭い目線を向けた。
翔太が思わず背を伸ばす。
「普通の犬にしては、ちょっと忠誠心が高すぎると思わない?」
と、すぐにブラックに目を向け、頬ずりを続ける。
「そっ、そう言われても、、、。」
目線で冷や水を浴びせられ、我を取り戻していた翔太だったが、わからないものはわからない為、頭を掻くだけだった。
「とにかく、おかしいと思った私は、この子をよく見たわけ、で、フェンリルだっ、て、気が付いたの。」
「どっ、どうしてフェンリルだっ、て。」
「勘よ。」
「は?」
それだけ?と、言いたげな翔太の態度に、セレアは、眉をひそめた。
「犬か狼かはともかく、この子の清涼な雰囲気、て、言うか、纏う魔力って言うのか、わからないの?」
セレアは、頬ずりはやめて、今度は、額を当てて、ブラックをあやしている。
「ぜっ、ぜんぜん、全く、、、。」
セレアは、一瞬、残念なものでも見るような目線を、翔太に投げかける。
「とにかく、ブラックはフェンリル。わかった。ね♪」
「あん!」
「はぁ。」
取り込んだのか、取り込まれたのか、いつの間にかセレアに同調するブラック。
理解の追いつかない翔太は、微妙に同意した。
と。
急に、セレアが、翔太を正面に捉えた。
「そこよ。」
「?」
さらにわからず、目だけ丸くする翔太。
「わからないかしら。フェンリル、って言ったら、この世界では、噂では聞いたことがあるけど、見たことは無いのが普通の、精霊獣よ、知ったら相当驚くはずよ。私も、気が付いた時には、かなり驚いたわ。でも、あなたは、全くそんな様子がない。しかも、そのフェンリルを従魔にしているってのにも驚かない。この世界の住人なら、二度びっくりで、本当に飛び上がるはずよ。」
講義をするような口調に戻ったセレアは、いったん区切ると、念を押す。
「わかった?」
「まっ、まぁ。」
セレアは、わかってないわね、と、ため息をつくと、次へうつる。
「他にもあるわ。ヒールよ。」
「ヒール。ですか?」
「そう。さっきも言ったけど、ヒールを使える人は、いないわけではないけど、普通は、女の人が使うの。男の人は極稀で、大体、それなりの歳よ。あなたぐらいの年齢の人は、見たことがない。知らなかったでしょ。」
確信を持って、確認するセレア。
翔太は、誤魔化そうとする思考すら思いつかず、から笑いした。
「とにかく。」
自慢げに、少し、鼻を高くするセレア。
「あなたは、大分おかしいのよ。ブラックがフェンリルだって知っても驚かない、しかも、知らないのに従魔にしている。この世界の人なら、ひっくり返る事実なのにね。ヒールもそうよ。普通は、女の人が使う事実を知らない上に、極稀に使える男の人としても、年齢があわない。で、犬にも勝てないのに、割と森の奥まで来ている。」
区切ったセレアは、切れ長な目にある美しい瞳を、翔太に真っ直ぐに向けた。
「つまり、あなたは転生者で、しかも、まだ、この世界に来たばかりだってこと。正解でしょ!」
翔太は、明らかに年上とわかる彼女が、可愛く、どうよ、と、胸を張る姿に、サクッと、撃ち抜かれた。
ー 隠すまでもないし。 ー
あっさりと思考を放棄し、
「せっ、正解です。」
認めることにした。
「ふふっ。いい子ね。」
ー この子を上手く手懐ければ、きっと、今回の失敗なんて、お釣りどころじゃないわ。ブラック、可愛いし♪ ー
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