王都へ 10
二人が止まって待っているところに、翔太が歩いてきた。
「おめでと。」
「やったな。」
「うん。ありがと!」
セレアとカレンに、嬉しそうに答える翔太。
もちろん、経験値を稼いだ方法について、二人が言う気はない。
が。
カレンは、他にどうしても、一つ、聞きたかった。
「ショウタ、今更だが、何でホブゴブリンに突撃できたんだ?」
いきなりの話題の変化に、目を白黒させる翔太だったが、すんなりと答えた。
「えっ、だって、カレン、肩に怪我したから、、、。」
言い訳を考えるように、俯き答える翔太に、カレンは、自分の質問の悪さに気が付いた。
「それは、まぁ、助かった、ありがとなんだけど、聞きたかったのは、突撃するのに、怖くなかったのか?って。」
翔太は、カレンが何を聞きたいのかは理解できたようで、さらに小さくなった。
「えっと、その、なんて言うか、気が付いたら突撃していて、考えることもなかった、と、言うか、思いもしなかった、って、言うか、、、。」
翔太が何にも考えていなかったことを知ったカレンは、俯き、黙る彼を眺めた、そこへ、セレア。
「たぶん、ショウタの性格なんじゃないかしら、何しろ、カレン、あなたに会う前にビックボアの魔獣化寸前を討伐したんだけど、その時も、私が狙われた途端に、剣を持ってビックボアに切りかかったのよ。私も本当に焦ったわ。」
近くにいる為、聞いていた翔太が口をはさむ。
「あれは、その、、、。セレアが危なそうだったから、思わずで、、、。」
どうにも、何も考えずに行動することを強調してしまったことに気が付いた翔太は、さらに小さくなっていた。
ー ホブゴブリンや、魔獣化寸前のビックボアに、何も考えずに突撃できる性格ってどんなんだ? ー
カレンは、思わず頭に手をやる。
「そう言えば。」
セレアが、思い出すように、唇に人差し指をあてた。
「最初に会った時、怪我をしているブラックを抱いて、犬から逃げてたわよね、もしかして、その時も?」
「、、、。うっ、うん。ブラックが危なそうだったから、思わず、、、。」
既に、言い訳をする気もない翔太が、素直に答えた。
カレンは、翔太のことが、一つだけ、はっきりわかった。
ー つまり、馬鹿ってわけだ。 ー
ガックリとうなだれてしまう。
「カレン?」
「どうしたの?」
翔太とセレアの心配に、片手を上げる。
「ごめん、ちょっとだけ。」
首を傾げる二人の前で、カレンは、ごちゃごちゃした感情を、一つ一つ、片付けていった。
そして。
「セレア、いいか?」
「?いっ、いいけど、なに?」
セレアが、急に、あらたまった口調になったカレンに、目を丸くする。
ー 答えは、一つだけだ。 ー
「あたしさぁ、ショウタを鍛えてやろうと思うんだけど、どう思う?」
「えっ、僕?」
当然、目の前にいる翔太が反応し、驚く。
「ショウタには聞いてない。」
「ショウタは、静かに。」
「えっ?」
翔太、撃沈。
「僕のことじゃないの。」
前で呟く翔太を無視して、セレアは、多少、考えた。
「いいんじゃないかしら。」
「そっ、そうか。」
ホッとしたように、カレンの緊張が解ける。
「剣でしょう?」
「あぁ、そうなる。」
「なら、むしろ、お願いしたいくらいよ。ショウタ、多分、強化はわからないけど、ヒール以外の魔法は、自力で覚えれないと思うの。」
「えっ、そうなの?」
脇で、ショックに叫ぶ翔太。
「だから、剣を覚えた方がいいんだけれど、それなら、私より、カレンの方が適任なのは間違いないから、お願いするわ。」
「あぁ、任された、ばっちり鍛え上げるよ。」
微笑むセレアに、拳を握って答えるカレン。
「ぼっ、僕のことだよね?」
欄外の翔太が、自分を指さしながら、二人に、自分を強調する。
「そうよ。」
「そうだぞ。」
「じゃあ、その、、、。」
「ショウタ。」
セレアの一言に、黙る翔太。
「じゃあ、ショウタは、カレンに剣を鍛えてほしくないの?」
セレアが、その綺麗な顔を突き出すようにして、翔太を覗き込んだ。
「えっと。そんなことはないけど、、、その、、、。」
ピンときたカレンも、セレアの真似をして、翔太を覗き込んだ。
整ったカレンの顔が翔太に近づき。
「あたしが鍛えてやるんだぞ、嫌か?」
「絶対、嫌じゃないから!あれ?」
ー よし。 ー
ー 落ちたわね。 ー
二人は、途端に、王都の方へ向き直った。
「とりあえず、冒険者ギルドへ向かいましょう。ショウタのレベルも上がったし、予定どおりに行けそうね。」
「あぁ、そうだな。」
歩き出す二人の後ろで、翔太。
「何だか、納得が、、、。」
「ショウタ。」
少し先で、カレンが翔太を呼ぶ。
翔太は、小走りになった。
ー 馬鹿は馬鹿でも、どうやら、死なせるわけにはいかない馬鹿みたいだからな。 ー
カレンは、小走りに来る翔太を横目に見ながら、ニヤリと笑った。
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