王都へ 9
街道を行く三人の前に、城壁が見えていた。
王都、ハーメストの城壁だ。
そして、行き先が、ストルアの村しかないこの街道は、朝方と、夕方に出入りする冒険者達がいなければ、だいたいが無人で、今も、三人が歩いているだけだった。
討伐が終わった直後の為、朝方に出ていく冒険者達が討漏らしたゴブリンや、獣も出ない。
「どうやら、思ったぐらいには着けそうね。」
セレアは、目を細めると、数日ぶりの王都を眺めた。
ー いろいろありすぎて、かなり久しぶりに感じるわ。 ー
翔太と会って以降は、落ちるように過ごしたが、思い起こすと、妙に長い。
ー まぁ、これからもそうなりそうだけど。 ー
少し離れた後ろを歩く翔太をチラリと見て、セレアは、抱いているブラックを撫でた。
森の中をギリギリまで行くつもりだったセレアだったが、カレンのこともあって、急ぐために街道に出たのはいいが、暇すぎて、両手をあけておく必要もない、と、翔太の疲れ具合もあって、ブラックを受け取っていた。
ー ブラックの飽きない可愛さ、ご機嫌ね。 ー
「あぁ。そんな感じだな。」
セレアの予想に、カレンは、適当に、考えることなく答えた。
横目に後ろを見る。
翔太が、俯いたまま歩いている。
ー 体力は、どう見てもないよな。 ー
カレンにしてみれば、一瞬でも実力を信用した翔太の、どこ、を、信用したのかは重要項目であるため、観察をしているのだ。
そして、そのことばかりに注意がいっていた。
が
ー 見つかるのが、信用できないところばっかりなんだよな、、、。 ー
性格は、どう見ても大人しい。
剣については。全く、使えるような様子はなし。
体力も、あるとは言えない。
とにかく、戦闘に関しては微妙だ。
ー それに、連れまわして鍛えるのも、セレアのこともあるし、逆に、二人について回るのも、、。 ー
考え込んでいると、
「カレン、いいかしら?」
セレアの声が聞こえた。
「あっ、ごめん、考え事してた。どうした?」
戻ったカレンは、セレアに目を向けた。
「先に、冒険者ギルドに行って、ショウタを登録したいんだけど、鎧のこともあるし、カレンはどうするの?」
カレンは、自分が翔太の背負い袋を着けていることを思い出す。
「そう言えば、そうだった。特にないし、今日は付き合うよ。先にギルドに行って、その後、鎧でいいよ。」
「助かるわ。たぶん、ブラックを登録するのに時間がかかると思うの、混んでくる前に終わらせたいと思って。」
セレアに頬擦りをされているブラックの鼻先を、ちょんちょんと、突くカレン。
ー 可愛い。 ー
カレンの指を追って、鼻先を動かすブラックは、どう見ても可愛く、カレンの正直な感想として、ブレスを吐く姿も、カッコイイ、ではなく、可愛く思っていた。
「それにしても、ブレスでレベルが上がるとはね。」
思わず呟く一言に、セレアが顔を上げた。
「きっと、ショウタと一緒で、レベルが0、だったんじゃないかしら。」
カレンの心に、そのセレアの一言が引っ掛かった。
「レベルが0?ショウタが?」
「たぶん、1ね。ショウタ、貴女に会う前にだけど、歩いていてレベルが上がったのよ。元のレベルが0でもないと考えられないでしょ。」
顔をカレンに向け、頬擦りのかわりに、ブラックの背を撫でるセレア。
しかし、女性から見ても綺麗なその姿は、カレンには見えていなかった。
ー つまり、ショウタは、レベルの補助が全く無いに等しい状態で、ホブゴブリンに突撃した、ってことか。 ー
獣人としては力が弱かったカレンは、必死になってレベルを上げ、それによって得られるレベル補正と言う補助の力を活用することで、強者になっていった為、
レベルの補助無し。
それは、考えるまでもなく、恐ろしいことだった。
目だけで、後ろを歩く翔太を見る。
明らかに体力が無い。
が。
基礎能力が低い人ならば、レベルの補助なければ、当然とも言えた。
「カレン?」
急に黙ったカレンに、セレアが不思議そうにしている。
「あっ、と、流石に思いっ切り驚いたよ。」
セレアも、少し、肩を上下して、
「私も、かなり驚いたわ。」
同意する。
落ち着いたカレンは、もう一つ、思いつく。
「でも、もしかしたら、レベルが上がる寸前だったから、歩いて上がったとか?」
「私も疑ってる。でも、もうすぐはっきりすると思うわ。」
セレアが、少しの間、後ろの翔太に目を向け、カレンに視線を戻す。
カレンも気が付いた。
「ショウタのレベルが上がる、ってわけな。」
「予想では。」
「確かに、レベルが上がって、また、すぐに上がるなんて、低レベルじゃないと考えられないし、ましてや、歩いてですぐに上がるなんて、レベルが0とか1じゃないとな。」
「楽しみね。」
二人は、同時に翔太を見る。
翔太は、もう少し遠くなって、必死に歩いていた。
ー 自分に力がないのはわかるだろうに、恐怖を感じないのか? ー
カレンは、自分で首を振った。
翔太が、恐怖を感じない、なんてことは、絶対にないと思ったからだ。
ー なんで、突撃なんてできたんだ? ー
「あっ。」
横で、セレアが声を上げた。
カレンが翔太を見ると、翔太も、声を上げたようだった。
翔太は、淡い光に包まれていた。
読んでいただき、ありがとうございます。
よければ評価をお願いします。




