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王都へ 5

 「傷は、いいみたいね、痕もないわ。着替えは、ないわよね。」

 カレンの肩を、近づいて確認したセレア。

 「まぁね。流石に着替えは持ってない。」

 肩を竦めるカレンに、セレアが、少し離れて自分のポーチを探る。

 「あんまり動かない方がいいわ。肩の部分、かなり危ないから。何かある?」

 肩の部分を何とかできそうな持ち物を、カレンは思い返す。

 「長さが足りないかもしれないけど、敷布ぐらいしかないな。」

 「私もそのくらいしかないわ。縛って使いましょ。」

 セレアが、ポーチから、寝る時に使っていた敷布を取り出す。

 カレンも、セレアとよく似た、腰につけているポーチに、慎重に手を伸ばした。

 「こっ、これー。」

 セレアの後ろから声が聞こえて、明後日を向いている翔太が、後ろ手に、背負い袋を突き出している。

 「前後ろを反対に着ければ、いいと思うんだけど。」

 カレンとセレアは、背負い袋を眺めた。

 「いいんじゃないかしら。」

 「悪くないな。」

 同時に二人。

 「じゃあ、使うわ。」

 「悪いな。」

 セレアが、翔太の持っている背負い袋を受け取ると、カレンの後ろに回った。

 「着けるから、動かないで。」

 「悪い。」


 「ちょっときつめにしたけど、どう?」

 後ろにいるセレアの声に、カレンが、軽く腕を回す。

 外れる心配はなさそうだった。

 「いいみたいだ。」

 首を捻って後ろを見たカレンに、セレアが頷く。

 「なら、大丈夫だと思うけど、魔石を回収して、急いで移動しましょ。」

 「そうだな。」

 頷いたカレンが、屈んで、中のホブゴブリンの魔石を拾い、右のホブゴブリンの魔石に向かい、セレアは、左のホブゴブリンの魔石に向かう。

 「ショウタ、もう大丈夫だから、カレンの方に向かって。」

 「わかった。」

 少しして、集まった三人が歩き出す。

 と。

 カレンが、後ろを歩く翔太を見た。

 「さっきは助かった。ありがとな。」

 「うん。お役に立てて、、、。」

 「私も見て驚いたんだけど、どうして、ショウタがホブゴブリンに追われてたの?」

 セレアも、翔太に目を向けた。

 「えっ、その、、。」

 セレアの言いつけを守らなかった為、怒られそうな気がして、翔太が首を縮めると、カレンが答えた。

 「あたしが肩をやられたところに、ホブゴブリンに突っ込んで転ばしてくれてさ。おかげで、本当に助かったから、動いたことは大目にしてやってほしいな。」

 セレアは、仕方ない、と、ため息をついた。

 「怪我は?」

 「倒れた時に、腕を擦りむいたけど、自分で治したから。」

 「ならいいわ。」

 肩を竦めて前を向いたセレア。

 カレンも、前に目線を向けた。



 セレアは、念の為に両手をあけ、翔太は、二人の少し離れた後ろを一心に歩き、カレンは、翔太の負担を少しでも軽くする為に、ブラックを抱いて、セレアの横を歩いていた。

 「ブラック、可愛いな。」

 肩でスヤスヤ、おねむのブラックの背中を撫でながらカレンが呟くと、

 「でしょう。」

 セレアが、少し、鼻を高くした。

 「なぁ、セレア。」

 カレン。

 「どうしたの?」

 セレアが、カレンへ顔を動かす。

 「ブラックだけどさぁ。」

 もったいぶるような笑い方のカレンに、

 「?」

 首を傾げるセレア。

 「フェンリルだったりしてな。」

 カレンの一言に、セレアの肩が、微小に跳ね上った。

 ー 、、、。すっかり忘れてたわ。 ー

 密かに目線を逸らすセレアの横で、カレンがブラックの背を叩く。

 「だってさ、なんて言うか、光ってる、て、感じ?精霊獣って言われても納得の可愛さでさ、セレアもそう思わないか?」

 上機嫌でブラックを撫でまわすカレンを見ながら、セレア。

 ー ショウタのこともバレてるし、今更かしらね。 ー

 「流石ね。そうよ、ブラックは、フェンリルよ。」

 「えっ?」

 カレン、硬直。

 「どうしたの?」

 「冗談、だったんだけど、、、。」

 「えっ?」

 「えっ?本当に、フェンリル?」

 「えっ、ええ、本当に、フェンリルよ。」

 ぎこちなく微笑んだカレンは、叫んだ。

 「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ。ほっ、本当にフェンリルぅぅぅぅぅ。」

 「えっ?えっ?」

 「まてまてまて。フェンリルだぞ!フェンリルって言ったら、カッコイイだろ、ブラックは、どう見たって、可愛いだぞ。そりぁ、精霊獣って認めるぐらい可愛いけど、ブラックは、、、。あれ?」

 騒ぎ立てながらも、自分が何を言っているのかわからなくなったのか、カレンが黙ると、

 「つまり、可愛い精霊獣のブラックを認める、ってことよね。」

 肩を竦めるセレア。

 「、、。まぁ、否定する気もないけど。」

 と、ブラックを両手に持ち直して、掲げるカレン。

 「そっか。お前さん、フェンリルなんだ。可愛いフェンリルなんて凄いな。これで、カッコイイなんかを持ってたら、驚くどころじゃないぞ。」 

 「プレスが使えるわ。火を吐けるわよ。」

 横でセレアが切り返す。

 「えっ?」

 「火のブレス。さっき、ショウタを追っていたホブゴブリン、片足の足首あたりが黒くなっていたわ、私は見てないけど、たぶん、ブラックがやったんだと思うわ。」

 ちょっと、得意げにしているセレアに、素っ頓狂に止まったカレン、

 動き出すと、ブラックをセレアに突き出す。

 「ちょっとだけ、、。落ち着くのに時間が欲しい。」

 にっこり笑い、セレアは、ブラックを受け取り、渡したカレンは、落ち着く為か、息を吸って、吐いて、頭を掻いてみたり、等、コミカルな踊りを続けた。


 「やっと落ち着いた。正直、ショウタが転生者だ、って言うことより驚いた。」

 カレンが、息を吐きながら語る。

 「私も、そうだったわ。」

 二人が、後ろを見ると、少し離れたところを、必死に歩いている翔太がいた。

読んでいただき、ありがとうございます。


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