王都へ 3
頬を指でかきながら、カレンは苦笑していた。
「その、あたし、嘘は得意じゃないけど、セレアもそうみたいだな。」
微妙に反応したセレアは、ゆっくりとカレンを見て、肩を竦めた。
「どうやら、今回はそうなるわね。」
「いいけど。」
二人は、同時に小さく笑うと、翔太へ向き直った。
「ショウタ!」
呼ばれた翔太が、小走りに近づく。
「改めて、転生したての、転生者、ショウタよ。」
「えっ?あ?その、、、。」
「そんなんだから、よろしくな。」
「うっ。うん。よろしくです。」
目を白黒させている翔太に、カレンは、爽やに笑い、
「後は、そこの小さい子だけだな。」
と、ブラックに目を向けようとして、セレアとともに、向こうを向いた。
「ホブゴブリン?油断したわ。ゴブリンだと思ってたわ。」
二人の目線の先には、あきらかに背の高い、緑色の肌をした三体の魔物、ホブゴブリン、が、三人のいる小さく広くなっているところへ侵入してきていた。
セレアが、即、細身の剣を抜く。
「すまない、あたしもだ。」
カレンも、ロングソードを抜く。
ホブゴブリン達は、足を止めて身構えた。
「私が二体を、、、。」
「いや。」
言いかけたセレアを、カレンが遮る。
「セレアは魔法主体だろ、この広さでは戦いにくいはずだ、あたしは、接近戦が主体だから、できないことはない、あたしが二体を引き付けておく。」
「でも、、、。」
二人は、にじり寄るホブゴブリン達から目を離さないようにして、剣を構えた。
「できるか、できないかじゃない。やらないと、それには、あたしが引き付けた方が確実だ。」
「、、、。わかったわ。」
「最悪、翔太を連れて逃げてくれ、時間は絶対に稼ぐ。」
「考えておくわ。」
一瞬だけ目を合わせ、頷く二人。
「ショウタは、ブラックを背に、ここから動かない。」
「うっ、うん。」
急いでブラックを背にのせる翔太。
「がぁーーー!」
前にいた、真ん中のホブゴブリンが叫び、走り出す。
後ろの二体も、
「がぁぁーー。」
叫び、続く。
カレンが、左手を突き出し、
「あたしが割る。」
「えぇ。」
セレアが頷くと、
「炎よ。」
言い放つカレン。
朱の炎を纏った塊が掌の前に生まれ、ホブゴブリン達に襲いかかる。
火球は、向かって左のホブゴブリンと、中のホブゴブリンの間、中のホブゴブリンの右肩へ向かっていた。
無言で、左のホブゴブリンは、左へ、中と、右のホブゴブリンが、右へ割れた。
「風よ!」
すぐさま、カレンの左にいるセレアが、左のホブゴブリンへ魔法を放つ。
薄く、横に広がる魔法の影に、足を止めて顔を守る左のホブゴブリン。
もとより、そこまで高さのない魔法が、左のホブゴブリンの胸に一線を残し、カレンが、少し遠いものの、中のホブゴブリンに向かって、剣を振り下ろした。
足を止める、中のホブゴブリン、その隙に、右のホブゴブリンが前に出る。
「くっ!」
カレンは、待たずに、そちらに剣を振り向け、
「風よ!」
守りを解いて走り出した左のホブゴブリンへ、力をまとめた魔法を放つセレア。
右のホブゴブリンを下げたカレンは、足を止めていた中のホブゴブリンの一撃を下がって躱し、左のホブゴブリンは、セレアの魔法をよけ切れずに左の肩で受けた。
「ギッ!」
どのホブゴブリンかわからない叫び声が響き、カレンが、踏み込んでいた中のホブゴブリンへ、大振りで剣を返して下がらせると、セレアは、下がりながら呪文を唱え、
「風よ!」
左のホブゴブリンは、魔法が当たるのを無視してセレアに突撃。
カレンは、さらに大降りになって、近づいていた右のホブゴブリンに向かって、体を開くようにして、剣を突き付けた。
その時。
中のホブゴブリンが前に出て、右手を一閃。
カレンの左肩に血飛沫が舞った。
「ちっ!強化!」
カレンの動きが加速し、剣を、救い上げるように中のホブゴブリンへ向かわせる。
中のホブゴブリンは、仰け反り、カレンの剣が、ギリギリを抜け、
「わあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
叫びながら突撃してきた翔太に激突された。
三体のホブゴブリンを見た翔太は、思わず後ずさりをしていた。
ー 逃げないと。 ー
セレアとカレンが話している内容は、全く聞こえていない。
だから。
「ショウタは、ブラックを背に、ここから動かない。」
セレアの声に最後までしたがって気が付いた。
ー 逃げれないんだ、自分がいるから、、、。 ー
足手まといになっている自分に。
唇を噛み締めていた翔太の目の前で、カレンの肩に血飛沫が上がる。
翔太は、止まっていられなかった。
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