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王都へ 1

 見渡す限り、木が立ち並んでいる中で、翔太は、少し地面から飛び出ている岩場の陰でかがんでいた。

 「わりと器用ね。」

 向かいで同じようにかがんでいるセレアが、翔太の手元を見ながら呟く。

 「そお?へへっ。」

 翔太は、バイトでよくやった草取りの要領で、毒消し草を根元から引き抜いていた。

 「ええ。強化を使って、力任せに引きちぎる人が多いから。まぁ、その方が見た目は早いけどね。ただ、根っこの方が値段がつくから、時間がかかっても丁寧に根から取った方が儲かるのよね。」

 セレアも、同じように、毒消し草を根元から引き抜いている。

 翔太の歩速から、一泊して王都に向かう予定にしていたセレアは、余る時間を採取に費やすために、森の奥に来ていた。


 「このくらいにしましょ。全部取ると、次に生えてくるのに時間がかかるから。」

 立ち上がるセレア。

 「うん。」

 頷き、翔太も立ち上がり、手に持っている毒消し草の根に付いている土を軽く払った。

 そのまま、セレアに渡す。

 受け取ったセレアは、腰のポーチにそれをしまう。

 小さくはないが、何度か採取した毒消し草を全てしまうには、小さい気がするし、セレアは、ストルアの村でもらった代金なども、ポーチにしまっていた。

 ー あのポーチ、なんだろ? ー

 「どうしたの?」

 足元に絡んでいたブラックを抱き上げ、頬ずりをしていたセレアが、翔太の目線に気が付いて、小首を傾げた。

 それだけで、様になるセレア。

 「あ。と、大したことじゃないから。」

 翔太は、自分の頬が赤くなるのに気が付きながら、首を振る。

 「ショウタ。気になるなら、聞いて、後で面倒になるから。」

 肩を落とすセレアに、翔太は、素直に聞くことにした。

 「その、ポーチなんだけど。」

 「あっ、これね。マジックバックになってるわ。」

 「マジックバック?」

 セレアは、翔太にわかるように少し考えると、

 「見た目より、沢山の物が入るように魔法が施されてるのよ。」

 「えっ、そうなんだ。凄いね。」

 どうやら、自慢の一品だったらしく、セレアが、ちょっとだけ鼻を高くして、ポーチを軽く叩く。

 「でしょ。かなりの値段になるんだけど、頑張って手に入れたの、ほんと、助かってるわ。」

 「ふーん。」

 熱心にポーチを眺める翔太に、微笑したセレアは、歩き出した。

 「さ、行くわよ。」

 「うん。」

 と。

 翔太が続いて歩き出そうとした時、セレアの表情が変わる。

 「何か来るわ。ゴブリン?」

 目を鋭くしたセレアは、周囲を見回して状況を確認し、

 「ショウタ。念の為にブラックを。」

 抱いていたブラックを、翔太の方へ突き出す。

 「うん。」

 「両手があくように背中からのせて、ブラックなら、ショウタが走ったぐらいでは落ちないから。」

 言われるままに、背中から、前足を肩にかけるようにブラックをのせる翔太。

 ー 無難にいきたいわね。 ー

 数本先の立木のむこうが少し広くなっていて、セレアが、そこを見渡せる立木の後ろに移動し、翔太を手招き。

 翔太は、黙ってセレアの近くに移動し、彼女の手の動作に従って、立木の陰に隠れた。


 少しして。


 翔太でもわかる程に走るような音が聞こえてくると、セレアが、急に体を寄せてきた。

 ー わっ? ー

 「動かない。」

 肩が触ったところで、場所をあけようとした翔太に、セレアの一言。

 どうやら、近づいてきた何かから隠れたようだ。

 危機感以上に頭に血が上った翔太は、とにかく目線を遠くに向けた。


 立木を回り込むように、緑色の肌をした何かが、セレアの前で、少し広くなっているところに駆け込む。

 背は、子供よりは高く、翔太よりは低い、しっかりとした筋肉質の体をしている。

 ゴブリンだ。


 次いで、勢いよく背の高い影が、ゴブリンに駆け寄り、既に抜き放っているロングソードを、ゴブリンにむかって一閃。


 ゴブリンの背に、大きく肩から脇腹にかけて傷がはいった。


 「ギャギ。」


 叫んだゴブリンは、覚悟を決めたのか、影に向かって振り向くと同時に、腕を振り放つ。


 が。


 影には全く届かない。


 影は、前をぬけていくゴブリンの腕にあわせて踏み込み、


 「強化。」


 魔法を発動させた。


 刹那に動きが速くなり、その勢いで、影は、両手に持ったロングソードをゴブリンの顔面に突き立てた。


 「ガッ。」


 煙を纏うようにゴブリンが消えていく。


 後に、赤黒い石のようなものが残って、地面に落ちた。

 影は、ゆっくりとそれを拾って、セレアと翔太が隠れている立木に、顔を向けた。

 「終わったぞー。」


 背は、セレアより少しだけ高く、赤い髪。

 健康的な褐色の肌

 柔らかく丸みを帯びた顎に、大きく丸い目。

 整った顔立ちは美しく、悩ましいラインを描く体は、張り出したふくらみを強調していた。


 ー どうやら、見つかっているみたいね。 ー

 彼女の声に、セレアは、一息入れて、立木の影から踏み出した。

 「ショウタは、待ってて。」

 こちらを見ているゴブリンを倒した彼女に向かって、セレアは、足を進めた。

 「流石に、逃げるだけの知能があるゴブリンを、あっさり倒せるだけあるわね。見つかるとは思わなかったわ。」

 セレアが、降参、と、ばかりに肩をすぼめながら言うと、

 「そりゃどうも。」

 彼女は、表情を崩した。

 「あたしは、カレン ストレア。あんたは?」

 カレンは、顔だけでなく、体も、セレアの方へ向けた。

 「あなたが。私は、セレア フランシア、よろしくたのむわ。」

読んでいただき、ありがとうございます。


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