ストルアの村 10
グレドウラの背を見送り、セレアが額を拭った。
「何とか誤魔化せたわね。ビックボアの頭の焼け跡なんて、すっかり忘れていたわ。」
気を取り直して、次の串へ手を伸ばすセレア。
翔太は、そのセレアを、少し、上目遣いで見上げ、
「ねぇ。なんとなく、ブラックのこと、気が付かれてるような気がするんだけど、、、。」
と、自信がなさそうに俯く。
セレアは、呆れ顔になって、腰に手を当てた。
「ショウタ。気が付かれていたら、もっと騒ぎになっているわ。大丈夫よ。」
「でも、、、。ビックボアの頭の焼け跡のこと、言ってたし、、、。」
駄目だ、と、セレアがため息をつく。
「それだったら、私の魔法だと思ってたじゃない。あと、フェンリルが火を噴くなんて、伝説にもないわ。」
ー でも、その時、ブラックを見てたんだよ。 ー
翔太は、その時のグレドウラの表情を思い出す。
ー 確かに、笑ってた。 ー
「そうだけどさ。」
思いつつも、答えはセレアに同意。
「とにかく、騒ぎになってないから、大丈夫よ。心配しない。それより、ショウタも食べなさい、食べれるときに食べるのも重要よ。」
セレアは、串についた肉を、大胆に口を開いて意外な速さで食べていき、次のを手にすると、翔太に、突き出した。
「はい。食べなさい。」
「うん。ありがと。」
ー 結局、気が付かれても、騒ぎにならなければいいんだ。 ー
適当な答えに落ち着いた翔太は、程々に肉にかぶりつき、残りを、ブラックに食べさせる。
「ほんと、変なこと言わなければよかった。」
横で、セレアがまたもや、恨みがましく呟いていた。
日が明けて。
二人と、グレドウラは、居間で座っていた。
「こっちが、討伐に対する代金で、こっちが、ビックボアの死骸の買い取り分だ。一応、確認してくれ。」
テーブルに置かれた二つの革袋を指しながら説明するグレドウラ。
「わかったわ。」
セレアが、革袋を一つ一つ確認し、微笑む。
「確かに、ありがとう。嬉しいわ。」
「なに、こちらも助かった。畑の被害もそうだが、死骸を譲ってもらえたのはよかった。あれは本当に美味い肉だった。」
ソファーの背にもたれるように体をたおしたグレドウラが、先日のビックボアの肉の味を思い出したのか、ニヤリと笑い、
「そうね。本当に、美味しかったわ。」
セレアも思い出したのか、ちょっとだらしない幸せそうな笑みをつくった。
飛び上がった、セレアとグレドウラ。
「あのぅ。すごく美味しかったです。ありがとう。」
翔太の声に、グレドウラは姿勢をなおし、セレアは、そつなく口元を拭う。
戻ったグレドウラは、翔太に、目線を移す。
「ショウタ、記憶を取り戻すのに協力できずに悪いな。」
「あっ、いえ。気を使ってもらって。」
なんとなく、グレドウラが気が付いているのでは?と、思っている翔太は、彼の声に微妙なからかいが含まれているような気がしていた。
「早く記憶が戻るといいな。」
「はい。頑張ります。」
心配そうな表情をしているも、微妙に目尻が下がっているグレドウラだったが、二人は気が付かなかった。
「そろそろ行くわ。」
「ああ。気を付けて行ってくれ。」
「ええ、気負つけるわ。」
「ありがとうございました。」
「ショウタも、頑張ってくれ。」
「はい。」
二人が扉を閉めて出ていくのを見送ったグレドウラは、ゆっくりと、背中をソファーにあずけた。
「まさか、生きているうちに、また、転生者と会うとはな。」
「おい、お前、この村の子か?」
グレドウラが、畑で勝手に実を食べていると、後ろから声を掛けられた。
驚き、慌てて振り向くグレドウラ。
そこには、エルフも霞む程の美男児が立っていた。
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