ストルアの村 9
「セレア、ショウタ、こっちだ。」
グレドウラの声が聞こえ、三人が向かう。
「案内、ご苦労、用意をして待っていてくれ。」
「わかりました。」
案内人が歩いていく。
「匂いからして、美味しそうね。」
取り繕っているセレアだったが、目線が落ち着かない。
匂いで、既に夢見心地の様子。
グレドウラも、
「あぁ。私も、かなり楽しみにしている。」
かなり気合が入っている。
翔太も、その匂いを楽しんでいた。
「こっちだ。」
グレドウラの後をついていった先。
いくつものテーブルが並べられ、半分には、皿に積み上げられた、焼き立ての、串に通されたビックボアの肉、もう半分には、木のコップが並んでいた。
「ショウタは、エールは大丈夫か?」
「えっ?えっと。」
ー エール? ー
振り向いたグレドウラに、予想外に声を掛けられて驚いた上に、エールがわからない翔太。
「あっ。てっ!」
聞こうとしたところを、セレアに肘で小突かれた。
「大丈夫よ。」
代わりに答えるセレア。
「なら、とりあえず、ひとつずつ持ってくれ。」
グレドウラは、セレアが答えたことは気にすることなく、手に取るよう勧め、顔だけ落ち着いた様子のセレアが、勢いよく行動する。
翔太は、ブラックを肩につかまらせると、二つを手にした。
「よし。もう少しだけ待ってくれ。」
グレドウラも、二つを手にすると、近くにある台に向かった。
ー 何? ー
エールがわからない翔太は、とりあえず、匂いを嗅いでみる。
「あぅ。」
そこに、セレアの肘が、再び決まった。
「皆の衆、用意はいいか?」
台に上ったグレドウラの声が聞こえると、周りにいた村の人達が適当に答え。
頷いたグレドウラが、コップを持った手を高く差し上げた。
「今日と言う日に乾杯!」
「乾杯!」
翔太も、セレアや村の人の真似をしてコップを差し上げ、慎重に、エールを口にした。
ぺしゅ。
堪えるも、クシャミ。
「やっぱり初めてみたいね。」
肉が積みあがった皿を横に、前に立っているセレアが軽く笑っている。
「これからはこのエールが普通になるわ。慣れておきなさい。それに、慣れたら美味しいわよ。」
コップを振って、セレアが片目をつぶる。
翔太は、赤くなりながら頷く。
「それより食べましょ。絶対、美味しいから。」
セレアは、串を口元に持ってくると、大胆に頬張ってみせる。
翔太も、頬張った。
「おいしい。」
思わず。
「これは、本当に美味しいわね。」
セレアも、そして、周りも、少しの間、ビックボアの肉を眺めると、勢いよく食べ始めた。
「ブラックも食べたいよね。」
翔太が、思いっ切り、尻尾を振り回しているブラックに声を掛けると、
「私があげてもいいわよ。」
既に、一本目を平らげたセレアだ。
「あっ、えーっと。」
翔太が、先日のことを思い出して、慎重にセレアを見上げる。
「んっ、と、そうだったわね。」
セレアも思い出したらしく、少し悲しそうに新たな串を手に取った。
「変なこと、言わなければよかったわ。」
むくれ顔になりながらも、勢いよく頬張る。
両手の荷物をテーブルに置いた翔太は、ブラックの向きを、背中側からになおし、食べれそうな大きさにした肉を、前に持っていく。
ブラックは、迷うことなくかぶりついた。
一心に咀嚼するブラック。
翔太が見ていると、いつの間にか近づいていたセレアもブラックを覗き込んだ。
「食べてるところも、かわいいわね。」
「うん、、、。」
目の前にあるセレアの首元。
翔太は、必死に目をそらして頷いた。
「あーあ、本当に、変なこと、言わなければよかった。」
ぷんす、と、向こうを向いたセレアは、かなり後悔しているのか、もう一度繰り返すと、既に二本目も食べ終わっていたらしく、三本目の串に手を伸ばす。
翔太は、落ち着くために深呼吸すると、次をブラックに食べさせた。
「この肉、本当に美味いな。」
声に、そちらを向くと、串を手に、満面の笑みでたっているグレドウラ。
セレアも笑って頷いた。
「ええ。本当においしいわ。」
「おいしいです。」
二人の返答に頷くグレドウラ。
と。
表情を変えた。
「それにしても、セレアは凄いな。」
明らかに感心したグレドウラの態度に、セレアは、思わず、自分を指さした。
「え?私のこと?」
「あぁ。そうだ、ビックボアの頭の部分が焦げていて気が付いたが、セレアは、炎の魔法も使えるんだな。」
「あっ。てっ。」
聞いていた翔太が、セレアに足を踏まれる。
「あっ、ええっと。そうね、かなり得意じゃないから、滅多に使わないけど、その、、、。たまにはちょっと練習に、と、そんな感じで使ってみたの。」
わたわたと、考えながら、何とかまとめるセレア。
「流石は、ソロでCクラスになれるだけあるな。」
「あははは。そうね。ありがとう。」
グレドウラの感嘆に、微妙にわかる誤魔化し笑いでセレアが答え、翔太が、その二人を何も言わないようにして眺めていると、一瞬、グレドウラがブラックを見たのに気が付いた。
ー 笑った? ー
翔太には、グレドウラの目尻が少し下がったように見えた。
「まぁ、肉はたっぷりある。ゆっくり楽しんでくれ。ではな。」
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