異世界へ行く前に。 2
「次は、レベル補正だな。」
かわらず、モニターモニターらしきものから目を離さない。
「レベル補正?」
翔太は、またも、オウム返し。
「お前の世界で言う、ゲームのレベルっぽい概念がある世界だからな、何にもしなくても、多少は補正が入るんだが、お前の歳ぐらいなら、なくてもそう変わらん、むしろ、最初は苦労することになるが、後で有利になりそうだからお得だぞ。」
男の眼だけが動いて、翔太をとらえた。
「はぁ。」
ー ゲームみたいな世界なんだ。 ー
行く先の世界を、少しだけ、想像しようとした翔太だったが、男の声が、それを止めた。
「で?いらないよな。」
完全に、男の中では答えが決定されている。
「まっ、まぁ。それなら」
最初の苦労の内容が気になったが、変わらないなら、と、もう少し不安を上乗せしながら、翔太は男の勢いに押されて答える。
「よし。」
カチャカチャ
「んー。もう少しか。、、、。」
「知識は、いらないよな。」
もちろん、モニターらしきものから目を離さず、男。
「知識ですか?」
返す翔太。
「そうだ、今から行く異世界の、一般的な知識だ、まぁ、赤ん坊ではないし、最初は苦労するかもしれないが、喋って集めれば問題ないぞ。っと、喋るぐらいはできないとな、ついでに、読み書きも、っと。」
「えっと。」
男が、目だけを動かして、言いかけた翔太を遮る。
「いいな。」
すっ、と、男の目が細くなった気がして、翔太は、勢いよく背筋を伸ばし、
「はい。」
「よし。」
強引とも言える決定の仕方に、さらに不安を感じる翔太だったが、男の放つ様子に、黙るしかなかった。
キーボードらしきものを叩く音が暫く続き、その音が終わると、男は、モニターらしきものに目線を走らせた。
「あとちょっとか、、、。」
悩むように、コツコツと、机の隅を指で突く。
やがて、決心したように、キーボードらしきものを叩いた。
「しょうがねぇな、後は、場所だ。」
翔太に聞かせる気がないのか、呟きにちかい言い方だったが、翔太には、はっきりと聞こえた。
「場所ですか?」
翔太のオウム返しに、男は、半分だけ、顔を翔太に向けた。
「そうだ。お前が現れる場所だ。」
「それって、もしかして、、、。」
あきらかな不安に、曇る翔太の顔。
少し、翔太の様子を確認して、説明する男。
「予想がついているみたいだが、一応、言ってやる。つまり、安全な場所か、ちょっと危ない場所かだ。」
「でも、それって、いきなり死ぬかもしれないっ、てことでしょう?」
目だけが、モニターらしきものに向き、確認する男。
「大丈夫だ。そこまではないはずだ。それに、お前は、最初からヒールを持って移れるから、最悪、自分で治癒できる。大丈夫だ。」
「でも、、、。」
さらに、食い下がろうとする翔太に向かって、すっ、と、男が、正面を向いた。
「うるさい。大丈夫だ。ちょっと、最初に苦労するだけだ。それに、いきなり転生者が死んだら、俺も怒られるんだぞ、そんな無茶するか!」
「えーっ。死ぬ時もあるってことでしょう!?」
「、、、。」
突然、黙る男。
翔太も、黙った。
「最近は死んでねえ。信用しろ。」
男は、思いっきり、気まずそうに眼をそらした。
「そっ、そんな、どこを、、、。」
翔太の一言に、カチンときたのか、苦しい言い訳を誤魔化す為か、男の、少し血走った目線が強烈に翔太に向けられた。
「うるさい!!いいな!」
「あぅ。」
強烈な目線に貫かれ、翔太は、いろいろと諦め、頷いた。
「あっ、、。はぁ、、、。わかりました。」
そして、完全に落ちきって答える翔太を横に、ふんっ、と、男は、モニターらしきものに向き合った。
「ったく。苦労して、ヒールをつけてやろう、ってのに、、、。」
カチャカチャと音が続き、ターンっと、一際な音が響く。
「よしっ。」
面白かった、とばかりに、男がニヤリと笑い、確認のためか、再び、手を動かした。
「おっと、少しだけ余ったな。」
ほろりと、声がこぼれた。
聞き逃さなかった翔太が、勢いよく、声を上げる。
「えっ。じぁあ、場所だけでも、、、。」
が。
男は、簡単に首を振った。
「んにゃ。決定したから、やり直すのはめんどくさい。」
「えっ?」
固まる翔太。
机に肘をつき、男は、薄く目を閉じた。
「んーー。そうだな。今からお前が行く異世界を上手くやっていくコツを教えてやる。」
男は、目を開くのにあわせて、手を下した。
「コツ、ですか?」
既に、大体を諦めている翔太だったが、それでも、少しでも希望に繋がるならと、確認する。
「そうだ。」
頷く男は、マウスらしきものをいじくりながら、モニターらしきものを眺め、答えた。
「それは、助かりますけど、、、。」
単純に、心配しか思いつかない翔太は、不安げに男を見上げる。
男は、自慢げに唇を少し吊り上げ、口を開いた。
「だろう?」
いかにも、してやったりな笑みを浮かべる。
決心した翔太は、背筋を伸ばし、
「おっ、お願いします。」
と、一言。
よしよし、と、数回、頷いて、男は、翔太を正面に見た。
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