ストルアの村 8
二人は、昼間に入った簡素な居間で、グレドウラと向き合っていた。
「倒してしまうとは、流石だな、今日は偵察だけだと思っていたから驚いたぞ。」
時間は深夜をすぎて、朝方と言ってよかったが、グレドウラは起きていて、二人を待っていた。
「ちょっと苦労したけど、何とかしたわ。」
疲れが見える表情で答えるセレア。
翔太は、セレアに、黙ってなさい、と、言われていて、ブラックを膝に静かにしている。
ブラックは、お休み中。
「うむ。」
頷くグレドウラは、次に、急に前のめりになる。
「でだ。ビッグボアの死骸だが、どうする?当然だが、討伐の報酬とは別で、こちらで買い取りたいのだが。」
ー あれって、価値があるんだ。 ー
聞きたい翔太の横で、あっさりと頷くセレア。
「かまわないわ。と、言うより、正直助かるわ、持ち帰るには大きすぎるもの、どうしようかと思っていたの。」
ー えっ?もしかして、あれを持ち帰るつもりだったの? ー
声が出そうになるのを何とか我慢するも、驚きで固まる翔太。
グレドウラは満面の笑みで体を起こした。
「そう言ってくれると思ったぞ、準備が無駄にならなくてよかった。」
「準備?」
「あぁ、ちょっと待ってくれ。おい、大丈夫だろうな。」
グレドウラは、手を上げると、奥の扉に向かって声をかけた。
「大丈夫です!準備は整ってます!」
扉から、案内をしてくれた村人が現れ、二の腕を叩いて、気合のポーズ。
「死骸は、案内した畑でよかったか?」
急かすようにグレドウラ。
「えぇ。少し派手に畑を荒らしたけど、、、。」
セレアは、二人の妙に高いテンションに引き気味で答えた。
「かまわない。だ、そうだ、すぐに行ってくれ。」
「わかりました!」
気合の入った答えで、走り去る村人。
「えっと、、、。」
セレアの言いたいことがわかったのか、グレドウラが上機嫌で答えた。
「なに、簡単だ。知っていると思うが、ビックボアは、大きければ大きいほど美味い。魔獣化していなくても、あの大きさなら相当美味いぞ。」
ちらりと、セレアの目が輝いた。
「そうよね。私もそう思ったわ。持って帰ろうかと思ったもの、、、。あっ、じゃあ、、、。」
「そうだ、解体も、早ければ早いほどいい。」
「でも、硬いというか、切れる感じがぜんぜんしなかったんだけど、、、。」
剣でビックボアを突いた時を思い出し、呟く翔太。
突然、セレアとグレドウラの目が自分に向いたことで、思わず喋ってしまったことに気が付いた。
「えっと、、その、、、。」
「心配するな。戦えるほどの力は出せないが、解体するのに十分な強化の魔法はできる。それに、皮さえ剥がせば中は柔らかいぞ。」
グレドウラは、自分で言って想像したのか、少し夢見心地な言い方になっている。
「いいわね。」
セレアも気分が上昇しているらしく、頬に赤みがさして、夢見心地。
「あぁ。明日は祭りだ、昼には準備が終わると思うから、二人はゆっくり休んでくれ、準備が出来たら人をよこす。」
「楽しみにしているわ。」
「あぁ。任せてくれ。では、私は陣頭指揮に行ってくる。ゆっくり休んで、明日の祭りに備えてくれ。」
グレドウラは、気合の入った様子で部屋を出て行き、セレアもそれを上機嫌で見送り。
「ショウタ。」
「あっ、うん、その、、、。」
呼ばれた理由がわかっている翔太は、少し肩を跳ね上げて俯いた。
反省しているらしい翔太に、セレアは、小さくため息をつく。
「まぁいいわ。彼も、変なことを言ってるのに気がついてなかったみたいだし。ショウタ、この世界では、大人になれば、普通に強化が使えるの。もちろん、全く使えない強化しかできない人もいるけど、強化が使えない大人はいないわ。いい?」
「うん。わかった。」
頷く翔太に、セレアは、軽く肩を竦め、
「いいわ。とりあえず、今日は休みましょう。」
二人は席を立つと、割り当てられた部屋へ向かった。
昼を過ぎたあたり、翔太とセレアは、呼びに来た村人とともに祭りの会場に向かっている。
セレアが、高い鼻を、もう少し高くして、
「いい匂い。」
と、呟く。
目の前の会場からは、翔太でもわかるほどに肉の焼ける匂いが漂っていた。
ー ホントだ。いい匂い。 ー
翔太も、鼻をひくつかせると、
じゅる、
と。
わずかに聞こえた音に、首をひねってしまう翔太。
横には、呆然と、瞳孔まで開いて目を見張っているセレア。
その口元に、、、。
「せっ、セレア、、、。」
涎。
思わず声を掛けた翔太が言い終わる前に、セレアが我に返った。
気が付いたのか、誤魔化すように口元に手を当てる。
そして。
「見てない。」
「うっ、うん。」
前を歩く案内の村人も、肉の匂いに釣られて恍惚と会場を眺めていた。
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