ストルアの村 6
ー 先に言って! ー
とにかく飛び出しただけで、何も考えていなかった翔太が、セレアの声で向きを変える。
ビッグボアも、翔太の後ろで指示を出したセレアを無視して、追従しようと行動に出た。
ー 間に合わない? ー
斜め前で向きを変えようと体を捻り、前足を突き出すビックボアの動作は意外に素早く、横を抜けようとする翔太に、横からぶつかれそうに見えた。
が
翔太が向かった方向は、丁度、ビッグボアの傷ついた前足が、外側に来る方だった。
ー もう少し、外に! ー
翔太が進路を変更しようとした時。
ズズン。
傷ついた前足に上手く力が入らなかったのか、その前足が開いてしまい、顎を地面に叩きつけてしまうビッグボア。
ー 助かった。 ー
その間に、少し離れた脇を走り抜ける翔太。
ビックボアは、転倒した勢いが落ち着くと、意外な器用さで立ち上がり、翔太を追って走り出す。
ー どこかで曲がらないと。 ー
離れていっては、セレアが攻撃できない。
後ろを確認すると、ビックボアは、転倒したおかげで距離が取れていようだった。
ー これなら、内側を取られても。 ー
斜めに、最短距離で走られても逃げ切れると判断した翔太は、また向きを変え、セレナの前をよぎっていく。
ビッグボアも、失敗することなく向きを変え、翔太に最短距離で突撃するために、セレアの前をよぎった。
ー 少し遠いけど。 ー
思うも、セレアは、傷ついた前足の反対側を見せて走っているビッグボアに向かって、
「風よ。」
と、魔法を放つ。
多少して。
「ぶきいぃぃぃぃぃぃ。」
「外した。」
セレアとしては、反対の前足も傷つけ、さらに機動力を削ぎたかったのだが、距離と、移動していることもあり、脇腹に傷をつけただけだった。
止まり、激しく頭を振って、攻撃者を探すビックボア。
一撃で終わるとは思っていない翔太は、距離をとるために一心に走り、セレアは、ビッグボアから隠れるため、小屋の影に戻ると、片目だけ出した。
セレアが影から状況を確認すると、ビッグボアが、翔太が離れていくのに気が付き、攻撃者を探すのを止めて、翔太を追って走り出していた。
しかし。
「不味いわね。」
影から飛び出るセレア。
「ショウターーー!それ以上はダメーーーー!曲がりなさーーーい!」
円を描くようにを忘れ、まっすぐ走る翔太が、離れすぎていたのだ。
ー 簡単に言われてもー! ー
思っても、セレアの攻撃がなければ、ビックボアを倒すことはできない。
後ろを確認し、曲がる翔太。
「もう少し!」
ビッグボアの足音が、かなり近づいているが、翔太は、向きを変えた。
セレアが正面に見える。
「そのままこっちに!タイミングは言うから!頑張って!」
「もーーー!」
息が上がりつつある翔太だったが、セレアの声に、不満の声を上げるも、ちょっとだけ加速。
「もうちょっとだからーーー!」
必死の形相で全力疾走する翔太に、緊張感なく声を掛けるセレア。
「もう少しーーー!曲がってーーー!」
指示に、セレアの前をよぎっていく方へ曲がる翔太。
ビッグボアも、追従。
「風よ。」
セレアの魔法が放たれ、ビッグボアの前足から、少し離れたところに当たった。
「ぶきいぃぃぃぃぃぃ。」
「あっ。もぅ!」
呑気に、前足に当たらなかったことを悔しがるセレアだったが、一つだけ、異変に気が付いた。
止まって、攻撃者を探そうとしたビックボアと、しっかり目が合ったのだ。
「んっ、と、見つかったみたいね。」
小屋の影に隠れるのを忘れていたのだ。
お前か!と、向きを変えるビックボア。
「はぁーー。しょうがないわねーー。」
鼻息も荒く、いかにもな殺気を放つビックボアに睨まれても、セレアは、落ち着いていた。
「めんどくさいけど、強化で一回離れて、と。」
ぶひぶひ、と、ビックボアが気合を入れてセレアに飛びかかろうと身をかがめたとき、
「やあぁぁぁぁぁ。」
と、翔太の声が上がった。
「あっ!馬鹿!」
セレアの声は間に合わず、ビックボアの脇腹あたりに駆け寄った翔太が、自前の剣をそこに突き立てる。
「?!」
目を白黒させるビッグボア。
「ぜんぜん刺さらないんだけど!」
あまりの硬さに驚く翔太。
「逃げなさい!翔太!」
「えっ?」
同時に、翔太の危機を感じたのか、ブラックがセレアの腕から抜けて、ビッグボアへ向かって走り出す。
前足のせいで、一瞬、渋るも、かなりの素早さで翔太の方を向くビッグボア。
「あっ。」
ほぼ目前にビッグボアの顔がきて、硬直する翔太。
「逃げなさい!」
声に、背を向け、走り出す翔太。
ビッグボアは、身を屈め。
セレアは魔法を集中して、
「風よ!」
精密射撃で放った。
バチン!
刹那に、引き絞ったゴムが切断されたような音が鳴り、姿勢を低くしていたビッグボアが、再び顎を地面に落とす。
集中されたセレアの魔法が、ビッグボアの前足の筋を断ち切ったのだ。
それでも。
何とか三本足で立ち上がるビッグボア。
「しつこい!風よ!」
セレアが、もう一度、魔法を集中して、精密射撃でビッグボアの後ろ足の筋を切断する。
ズズズン。
流石に倒れるビッグボア。
それでも足掻くビッグボアの頭の近くに、やっと、走ってきたブラックが近づいた。
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