ストルアの村 4
「えっ?」
またもや、想定外の言葉に、目を丸くするセレア。
何とかとどまった翔太。
「あの、どうして?」
グレドウラは鷹揚に頷いた。
「ショウタの格好だ。」
「冒険者らしい恰好だと、、、。」
「恰好はな。だが、それは、全て新しい物だろう。」
「あっ。」
グレドウラの指摘に、セレアが小さく声をもらした。
「そうだ、その歳の冒険者で、全ての装備を新しい物で揃えれる者など、そうはいない。しかも、大きさも違和感のない物となると、尚更だ。」
「、、、。」
黙ってしまう二人。
微妙に、本当に、微妙に、からかうような笑みを浮かべたグレドウラ。
二人は、気が付かない。
「まぁしかし、あくまで予想だ、気にするな。」
グレドウラが、これ以上、この話を続ける気がないことに気が付いた二人は、胸をなでおろした。
「そっ、そうね。私もわからないし。」
「ごっ、ごめんなさい、覚えてなくて、、、。」
「いゃ、いい。」
とりあえず、間をあけてしまったことを誤魔化そうとする二人を止めたグレドウラの目が、スッと、真剣なものになった。
「話は変わるが、セレア、君は、ソロで冒険者ランクがCランクだと聞いているのだが、申し訳ないが、確認させてもらってもいいか?君に、急だが頼みたいことがあるんだ。」
「かまわないわ。待って。」
セレアは、腰のバッグに手を入れると、中から、一枚のプレートを取り出した。
「これで。」
「すまないな。疑っているわけではないが、Cランクといえば、個人でなれる事実上の最高ランクだ。頼みごとの内容から、確認しておきたいんだ。」
申し訳なさそうにするグレドウラに、しかたがないわ、と、肩を竦めたセレアが、プレートを渡す。
プレートを受け取ったグレドウラの表情が、驚きに変わった。
「凄いな、、、。いや、すまない、疑って。」
グレドウラからプレートを返されたセレアは、もう一度、肩を竦めた。
「よくあることだから、気にしてないわ。」
「そうだろうな。悪いな。で、セレアに頼みたいことなんだが、かまわないか?」
「話は聞くわ。受けるかは、話を聞いてからにするわ。」
「当然だな。」
セレアの答えに、頷いたグレドウラは、そのまま話を続けた。
「君に頼みたいのは、ビックボアの討伐なんだ。」
「ビックボア、こんなところに。」
「あぁ。実は、国の討伐隊がいった後に、稀に出ることがあって、警戒していたら、昨日の夜にな。いつもなら村の衆で何とかできるのだが。」
グレドウラが肩を竦め、セレアは、眼を細くした。
「私のランクを確認しないといけないほどなのね。魔獣化しているの?」
小さく首を振るグレドウラ。
「遠めの確認で悪いが、そこまではないはずだ。ただ、ゴブリン共が戻ってきて、そいつらを吹き飛ばしながら来るようになったら、時間の問題だろうな。」
大きく息を吐きながら、目を閉じたセレア。
「今日も来るのね。」
頷くグレドウラ。
「間違いなくな。」
「わかったわ。でも、先ずは確認したいわ。いいかしら。」
慎重に答えるセレア。
「それでいい、私の見立てより正確な結果があれば、こちらの対応がしやすくなるからな。」
きつくなっていたセレアの目尻が緩くなる。
「そう言ってもらえると、判断がしやすくて助かるわ。」
「流石にあれを見て無理は言えない。私も初めて見る大きさだからな。」
苦笑するグレドウラ。
セレアは、軽く微笑んだ。
「奴が来るのは、深夜を過ぎたぐらいだ。見張りはこちらで出すから、それまではこちらで用意した部屋で休んでいてくれてかまわない。で。」
言葉を区切ったグレドウラが、話に入れず、黙って膝の上でブラックをあやしていた翔太に向き直った。
物珍しそうな目線が、ブラックに固定されている。
「その、、、。ショウタが膝にのせている、、、。」
「あっ、と、この子、ブラックです。」
いきなりで、慌てた翔太だったが、目線からブラックだと気が付き、とりあえず、名前を答える。
「そうか、ブラック、、、か、ん、、、と、申し訳ないが、少し撫でさてくれないか?」
何故か歯切れの悪い言い方をするグレドウラに、翔太があっさりブラックを渡そうとしたところで、
「ごめんなさい。」
セレアが割り込んだ。
「ブラック、ショウタ以外の人に触られるのを極端に嫌がるの。」
「そうなのか、それは残念だな、かなり愛くるしく見えるから、少し、撫でてみたかったのだが。」
目線をブラックに固定した状態で、どこか上の空なグレドウラ。
とにかく、ブラックから注意をそらそうと、焦りながら適当に話すセレア。
「そうなのよ、私も可愛いから撫でさせて欲しいんだけど、怒っちゃって。ね。ブラック。」
「あん。」
突然、セレアに答えたブラック。
呼ばれたと思ったのか、翔太の膝から移動を始める。
「えっ!えっ、と。」
思いもよらないブラックの行動に、かなりの勢いで狼狽するセレア、両手を拒むように突き出し、
「ブラック!えっと、そう、怒っちゃった?攻撃する気なのかしら、私、困っちゃうんだけど。」
「てっ。」
翔太の足を踏んだらしい。
「とにかく、止めてよ。ショウタ、私、攻撃されたくないんだけど。」
「あ、わ、うん。ブラック、駄目だから。」
意味がわからず止まっていた翔太が、急いでブラックを捕まえ、抱き上げる。
「あん。」
ブラックは、逃げることもなくあっさり捕まると、上機嫌な様子で、翔太の頬に鼻先をあてた。
「と、言うことだから、、、。」
向き直るセレアの前で、いつの間にかグレドウラは、目に涙を貯めて、笑いを堪えていた。
真っ赤になっていく、翔太とセレア。
「いや。すまない、確かにその様子では撫でさせてもらうのは難しそうだ、今回は残念だが諦めるよ。」
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