ストルアの村 3
村の入り口から続く、簡単に整備された通りは、村の中心に近い場所に見える大きめの家以外は脇に建物はなく、いくつかに枝分かれした先に、住民の住居らしい建物が建っていた。
翔太の目に、大きめの家の入口に立っている男が確認できる程近づいた時、男も、二人を確認して手を上げた。
「セレア、心配したぞ、暗くなる前に帰る、と、言っていたのに、帰らなかったから。」
男は、近づいてくる二人を待って、声を掛けてきた。
「ごめんなさい。ちょっといろいろあって、、、。」
「この子は?」
男が、答えるセレアの少し後ろ、影になるところを歩いていた翔太に気が付く。
「この子、森で迷っているところを見つけたの、記憶が混乱しているみたいで、この村の子?」
微小に、棒読みで答えるセレア。
「いや、この村の子ではない。全く記憶がないのか?」
「名前はわかるわ。ショウタ。」
「うっ、うん。翔太です。すいません、本当に、名前しか覚えてなくて。」
しげしげと、翔太を眺める男。
「ショウタ、と、言う名前は聞いたことがない。それに、この村には、今は、このくらいの歳の男の子はいない。」
顎に手を当て、自分の記憶を確認する男。、
「そうなの、じゃあ、違うわね。恰好は冒険者みたいだし、王都の冒険者ギルドに連れていって確認するしかないわね。」
全く、演劇などがわからない翔太でも、棒読みっぽい話し方だと気が付くセリフを連発するセレアに、冷や汗を流しながら控え目な態度をとる翔太。
「その方がいいみたいだな。ショウタ、すまないな、力になれなくて。」
本気ですまなそうにしている男に、多少の罪悪感を覚えながら、翔太は、頭を下げた。
「いぇ、すいません、手数をかけて。」
「いや。」
「村長は在宅かしら。」
「あぁ。心配していた。入ってくれ。」
「この子も?」
「かまわない。」
「すいません。」
セレアの棒読みっぽい話し方に気が付くこともなく、扉を開け、中に入っていく男。
セレアは、自慢げな目線を一瞬、翔太に向けると、男に続き、セレアの目線に、不安の混じった苦笑で答えた翔太も続いた。
二人は、簡素な居間に通され、村長を待っていた。
ブラックが、翔太の膝で、機嫌よく尻尾を振っていると、カチャ、と、音がして扉が開き、白髪の老人が無駄のない動きで部屋へ入り、真っ直ぐセレアに目を向けた。
「セレア、心配したぞ、無事でよかった。」
老人は、心底、安心した表情で、セレアを立ち止まって眺めた。
「ごめんなさい。心配させて。」
「いや、無事なら言うことはない。その子が?」
肩を竦めながら歩き出した老人が、翔太に目を止めた。
「えぇ、ショウタよ。」
セレアが片手をあげて翔太を紹介する。
急いで翔太は、頭を下げた。
「翔太です。よろしくお願いします。」
「あぁ、グレドウラだ、よろしく頼む。セレア、彼は、この近くにいたのか?」
翔太に軽く手を上げながら席に着いたグレドウラは、少し翔太を見やって、セレアに声を掛けた。
「そうよ。そんなに遠くはないわ。」
演技っぽい仕草で、オーバーアクションに答えるセレア。
「ふぅむ。」
腕を組むグレドウラ。
「しかし、何処から来たんだろうな。この辺りには、この村以外に人の集落はないんだがなぁ。」
「えっ?」
想定外の言葉だったのか、目を丸くするセレア。
「えぇ、と。」
「ごめんなさい。本当に、何にも覚えてないんです。その、どんな場所から来たのかもわからなくって。」
戸惑うセレアに代わって、咄嗟に答える翔太。
「場所かぁ。確かに、どんな感じの場所かわかれば、、、。それも覚えていないんだな。」
息を吐きながら首を捻るグレドウラ。
「すいません。」
しおらしく頭を下げて見せる翔太。
グレドウラは、ふむ、と、顎に手をやる。
「ほ、本当に、何処から来たのかしらね。この子。」
復活したセレアが、余計なことを、と、翔太の足を軽く踏む。
「てっ。」
驚いて、思わず声が出る翔太。
「うん?」
考えていたグレドウラが反応し、慌てたセレアが、手を振って誤魔化そうとする。
「なっ、何でもないわ。ねっ、ショウタ。」
「うっ、うん。ごめんなさい。何でもないです。」
必死に、不自然に誤魔化そうとする二人。
考え込んで、全く気が付く様子の無いグレドウラ、少し間を空けると、上に向けていた目を、二人に向けた。
「まぁ、しかし、この村から一番近いところにある王都なら、相当頑張れば、暗くなる頃にはむこうに着ける。そう思えば、この子は、王都から来た可能性があるな。」
と、セレアが、我が意を得た、と、声を上げた。
話し方は、微小に、棒読み。
「そっ、そうよね。ショウタは、冒険者らしい恰好をしてるし、王都の冒険者ギルドに連れていって確認しようと思ってるの。」
「うん。それがいいだろうな。」
グレドウラは頷き、翔太を見やる。
「悪いな、ショウタ。どうも、力になれないようだ。」
「いえ、そんな、ありがとうございます。」
翔太は、急いで頭を下げた。
「ふふっ。しかし、翔太は、いいところの出身なのかもしれないな。」
グレドウラの一言に、セレアが凍り付いた。
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