ストルアの村 2
「本当に、もう少しなんだけど、、、。」
ここまで来て、急激に歩速が落ちた翔太を、困った表情でセレアが眺めていた。
ふらつく足に、それを支えようと、杖代わりの枝を握った手を支える腕も震えている。
つまり。
倒れる寸前。
「ショウタ、転ぶ前に座った方がよくない?」
既に答える体力もない翔太は、聞こえている様子もなく、次の一歩の為に必死にバランスをとろうと止まっていた。
こんな時も、ブラックは、翔太の肩にぶら下がるようにして、呑気に眠っている。
途中、何回か、翔太が転倒しそうになった時は、流石に落ちそうになっていたが、それ以外は、何故か、寝ているのに落ちる様子がない。
もちろん、セレアがブラックを抱いていないのは、いざという時に両手を空けておきたい為だった。
しかし。
セレアが、今日中にストルアの村に到着することを諦め、翔太を強制的に座らせる前に、落ちるであろうブラックを抱こうと手を伸ばした時。
「どっ、どういうこと?」
思わず下がるセレア。
翔太は、何とか一歩を踏み出して、足が地面についた時だった。
翔太の全身が、薄っすらと、光を放ちだす。
「しっ、進歩の輝き、、、。えっ?」
完全に、下を向いていた翔太も、自分の足が光を放ち出したことに気が付き、顔を上げた。
「なっ、なに、、、これ、、、?」
喋れなかった喉が、普通に声を発し、大半の疲労は残っているものの、動けるぐらいには回復した体力。
翔太も驚いて、どうして?と、セレアを見る。
「もっ、もしかして、、、。歩いただけでレベルアップ?信じられない、、、。」
驚愕だけを表現する瞳のセレアの呟きに、翔太も、、、。
「えっ?」
「つまり、動けるようになったのは、レベルアップで体力が底上げされたから、底上げされて増えた分が、回復したように見えた、って、わけね。」
「そっ、そうなんだ。」
疲れた歩き方をするセレアの後ろで、翔太は、杖代わりの枝を捨てて、歩いていた。
「でっ、でも、歩いただけで、レベルアップって、するの?」
止まるセレア。
疲れた顔だけ、翔太に向けた。
「普通は、しないわ。でも、理論上はありえるわ。」
「あり得るの?」
驚く翔太に、セレアが数回頷く。
「そうよ。経験になるものなら、何でもあり得るわ。ただ、普通は、レベルアップする程の経験値にならないだけで。」
「だっ、だよねー。」
翔太のから笑いに、黙って髪に手を通すセレア。
「そうね。例えば、ショウタが全くレベルのない状態、レベル0、だったりしたら、、、。だったみたいね。」
答えに気付いたセレアは、思いっきり、呆れた表情で翔太を見た。
「そっ、そう言えば、、、。」
「お前の世界で言う、ゲームのレベルっぽい概念がある世界だからな、何にもしなくても、多少は補正が入るんだが、お前の歳ぐらいなら、なくてもそう変わらん、むしろ、最初は苦労することになるが、後で有利になりそうだからお得だぞ。」
男の説明が、翔太の頭をよぎった。
「思い当たる節があるみたいね。」
ー 赤ん坊でもあるまいし、レベル0、なんてあり得るの? ー
こめかみに指を当てて、思い出している翔太に、同じように、こめかみに指をあてて、頭痛を感じているセレアが声をかける。
「まぁ、とりあえずは、レベルアップ、おめでと。さぁ、ストルアの村に着いたわ。」
まだ日差しがさしている視界に、簡易の柵が途切れただけの入口が近づいていた。
ストルアの村に入った二人が、村の中心に近い場所に見える、大きめの家に向かっていると、セレアが半歩後ろを歩く翔太に振り向いた。
「そうそう、ショウタ、あなたが転生者だと気が付かれると面倒だから、記憶喪失にしといて、名前しか覚えていない、で、いい?」
「うん。いいけど、、、。」
翔太の言葉を切るように止まったセレアは、振り向き、腰に手をあてた。
「だって、翔太がしゃべったら、絶対、転生者だって気が付かれるでしょ。」
「あーーー。そ、そうだね。」
行いを思い出して、俯く翔太。
「それから、ブラックだけど。」
続けるセレアは、顔を上げた翔太が抱いているブラックの頭を撫でる。
「この後、多分、村長と話をすることになると思うけど、膝の上とか、彼の目線に入らないところにいさせて、かなりよく見ないと、フェンリルだなんて、気が付かれることはないはずだけど、逆に言えば、かなりよく見られると、気が付かれるから。」
「うん、気を付けるよ。」
「話は私がするし、彼の注意がブラックにいかないようにはするけど、翔太も気を付けてね。」
「うん。」
セレアは、頷く翔太に子供に見せるような微笑みを向けると、向きなおり歩き始める。
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