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夜に 4

 翔太の意識は、セレアの背から、ブラックに移っていた。

 翔太は、勢いにまかせて立ち上がろうちしていた体の緊張を解き、ストンと座りなおした。

 静かに手を伸ばし、ブラックの頭を撫でる。

 ブラックは、起きる様子もない。

 「ブラック。」

 小声で、だが、ブラックには聞こえるように呼んでみる。

 「?」

 ブラックが、半目を開ける。

 ー ごめん、ブラック。 ー

 可哀そうだと思ったが、今の翔太には他に思いつく手はなく、心で手を合わせながら、もう一度。

 「ブラック。」

 今度は、丸い目がしっかり見開き、頭を上げ翔太を見ると、起き上がってちょこちょこと翔太に駆け寄ってくる。

 翔太は、座ったブラックの頭を撫でた。

 息を吸いながら、言うことをまとめ、吐きながら決意する。

 「ブラック、悪いけど、セレアを起こしほしいんだ、できる?」

 微妙に、首を傾げたように見えるが、不思議そうに止まっているブラック。

 ー わっ、だめかな?異世界だから、阿吽でわかると思ったんだけど。 ー

 だが、ここで諦めるわけにはいかない。

 翔太は、考えると、ブラックを見た。

 「ブラック。セレアを呼んでほしいんだけど、頼める?」

 間を置き、翔太が、ダメか、と、思った時、ブラックが向きを変え、セレアに向かって走り出した。

 胸を撫で下ろす翔太。

 意識がセレアの背に向かないように、ブラックの後ろ姿に集中する。

 ブラックは、セレアの頭を回り込み、顔の前で座ったようだった。


 突然。


 「きゃっ。」

 

 飛び起きるセレア。

 

 翔太にハンマーで殴られたような衝撃が走った。


 ー えっ。そんな驚き方する人、本当にいるんだ! ー


 しかもその声は、あまりに可愛らしく、翔太に与える衝撃を倍にする。


 「えっ。なに?なに?」


 寝ぼけた様子で、あたりを見まわすセレア。


 翔太は、その時になって、任務に失敗したことに気が付く。


 ー 起こすんじゃなくて、驚かせちゃった! ー


 セレアの半眼になった目が、翔太に固定される。


 翔太は、咄嗟に頭を下げた。


 「ごめんなさいーーー。」


 「、、、。」


 セレアは、少しの間、翔太を眺め、

 「出来れば、普通に起こしてほしかったんだけど。」

 少し、機嫌の悪さが混じったセレアの声。

 「ごめんなさい。その、どうやって起こしたらいいのかわからなくって、その、ブラックに頼んだら、その。」

 必死に、事情を話す翔太。

 セレアは、なんとなくわかったのか、片手を上げ、喋る翔太を止めた。

 「はいはい。わかったわ。」

 肩を落とすように息を吐いたセレアは、機嫌をなおすと、軽く、両肩を上げた。

 自分の顔があったあたりで座っているブラックを撫でる。

 「とりあえず、次は肩でも揺すって、起きるから。」

 「うっ、うん。頑張る。」

 明らかに自信がなさそうな翔太。

 ー これは、、、。次も大変そうね。 ー

 セレアは、諦めのため息をついた。





 少し向こうに、寝苦しそうにしている翔太がいた。

 セレアは、その様子をぼんやりと眺めていた。

 ー 転生者って、皆、こんな感じなのかしら。 ー

 聞くところによると、転生者は、見た目の年齢とは思えない考え方や、行動をする場合が多いらしく、大体が、見た目の年齢以上に大人びた態度をとるらしいが、翔太は、見た目の年齢と相応か、下手をしたら、下なのでは?と、思えた。

 「干し肉、食べたことがなさそうだったし、擦れてる様子もない、どこかのボンボンで、、、。は、違うわね。甘やかされて育ったには、態度が横柄ではないし。」

 セレアは、焚火へ顔を向けた。

 火は、多少、弱くなっていたが、薪を加えるほどではない。

 翔太に前の話を聞いてもよかったが、時折、妙に苦しそうな表情になることから、セレアは、無理に聞き出そうとは思っていなかった。

 ー まぁでも。フェンリルを従魔にしているだけでなく、ヒールまで使えるとはね。ヒールポーション代が安くなるだけでも、思った以上どころじゃないわ。擦れてる様子もないから、教えやすそうだし。 ー

 「ブラック、可愛いし♪暫く楽しめそう。」

 頭の中でいろいろと算段をしたセレアは、ちょっと邪心の混じった満面の笑みで、翔太とブラックを眺めた。



 暫くして、、、。

 翔太は、またもや、絶望的な苦悩に陥っていた。

 ー さわらないと、起こせない、、、。 ー

 寝ているセレアの後ろ、手を伸ばせばさわれるところまで来ていた翔太は、顔は、闇に包まれた森に向け、目だけを、ぎりぎりセレアが視界に入る方へ向けていた。

 屈んで、手を伸ばしては、立ち上がり。

 明らかに不審な挙動を、何度も何度も繰り返した後、覚悟を決めた翔太は、眼をしっかり閉じると、もう少し手を伸ばした。


 掌が、セレアの肩に触る。


 翔太は、その感触に飛び上がりそうになる。


 が。


 耐えた。


 さらに、意思を固め、腕を押し出す。


 従い、さらに、掌が、セレアの肩に押し付けられ、同時に、彼女の肩を前に押し動かす。


 一回


 二回


 「ん?」


 翔太の覚悟が砕け、逃げ出そうとした時、セレアの様子が変化。


 翔太は飛退いて、様子をうかがった。

 背中を見せているセレアは、何度が目をこすった後、ゆっくりと起き上がる。

 微小にしどけない姿であたりを見まわして、飛退いていた翔太に気が付くと、そのままの様子で、寝ぼけ眼に翔太を見上げた。

 「交代?」

 「うっ。うん。」

 「ん。」

 セレアは、全く無防備に伸びをすると、しっかりと、目を見開いた。

読んでいただき、ありがとうございます。


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