夜に 3
少しだけ離れた向こうに、セレアが横になって寝ていた。
翔太は、背を向けるセレアに目がいきそうになるのを堪えながら、焚火を見つめている。
横に、丸くなったブラックが眠っていた。
少し前、、、。
「夜の見張り、やったことある?」
硬い干し肉を苦労して食べ終わったところで、セレアが翔太に声をかけた。
「あっ。ごめんなさい。夜勤はまだやったことはないんだけど。」
「べつに、謝らなくてもいいわ。年齢的にわかってはいたんだけど、確認してみただけ。」
セレアは、腰に付けた革製に見えるバッグから、何かを取り出して、翔太に見せた。
「砂時計?」
「流石に、これはわかるみたいね。」
「まっ、まぁ。」
ー 完全に、何にも知らない、と、思われてそう。 ー
フムフム、と、頷くセレアを見ながら、彼女が自分をどう見ているかに気が付いた翔太は、苦笑を浮かべる。
「とりあえず、これ。」
砂時計を持った手を伸ばしてくるセレアに、引かれるように、手を伸ばす翔太は、セレアから砂時計を受け取ると、目の前に持ってきた。
「大体、一時間よ。」
「うっ、うん。」
「二時間経ったら起こして。何にもないと思うけど、一番危険な時間は私が見張るから。」
「うん。わかった。」
頷いたセレアは、コロンと横になった。
「あっと。そう、気になることがあったら、様子を見るとか、考えるとかしないで、遠慮なく起こして。いいわね。」
半分だけ顔を向けていたセレアは、言い終わると、向こうをむいて目を閉じた。
翔太は、いつの間にか、セレアの背に目を向けていたことに気が付き、急いで焚火に目を向けた。
ふぅーーー。
長く息を吐き、集めてあった枝を、数本、焚火に放り込む。
ー あっちはどうなってるだろ? ー
何人かの学友と、掛け持ちしていたバイト先の人達。
「つっ。」
胸が痛んだ。
自分が戻れない証でもある。
長いようで、短い時間だったが、変に途中で死んだりしなければ、こちらの世界の方が長くいることになるのは間違いなさそうだった。
はぁーーーー。
翔太は、両足を投げ出すように伸ばし、両手で地面を突くように支えて、上半身を起こして空を見上げた。
闇色に塗り固められた、森と森の間に見える星空は、どう見ても、こちらの世界の方が美しく輝いていて、現実とは思えなかった。
黙って空を見上げる翔太。
はぁーーーー。
今度は、膝を折って両腕で抱えるようにする。
「わかることは、どうしようもないってこと。」
少し止まって、体を伸ばして仰向けに。
「どうなるんだろ。」
翔太は、焦点の定まらない目線を泳がせながら、いろいろ考えるも、結局は、わからない。
胡坐をかいて座り直し、頭を搔く。
「結局は、やってみるしかないのはわかるけど、、、。」
ぼそりと呟く翔太。
「なんだか、大丈夫かな?」
思いっきり、大きく息を吐いた。
二時間ほど、、、。
翔太は、絶望的な危機に陥っていた。
「どっ、どうしよう?」
落ち着きなく目線が動き、冷や汗を流しながら、両手を振っている。
セレアを、どうやって起こしたらいいのかわからないのだ。
ー 石でも投げる? ー
「絶対、不味いだろ!」
何度もボケとツッコミを繰り返す翔太。
目線だけはセレアに向けないように、焚火と、セレアのいない森へと目が動く。
「うっ。しょ、しょうがないよね。起こさなくても怒られそうだし。」
暫く苦悩していた翔太は、意を決して、寝ているセレアの背中に目を向けた。
寝息が聞こえる程ではないものの、離れているわけではない距離に、セレアがすいよすいよと、眠っている。
重力に従って垂れ下がる長い髪のむこうに見える首元は、透き通るほどに白い肌。
「くっ。」
ゆっくりと、焚火に目を動かす。
「落ち着く。落ち着く。」
ー 頭は、ダメ! ー
息を大きく吸って、吐いて、数回、繰り返し、再び、セレアの背中に目を向ける。
華奢な肩から延びる白い肌の腕が、肩から腰へ向かう柔らかなカーブの上に置かれ、そのカーブの先にある腰、、、。
ゆっくりと、焚火に目を動かす。
ー 背中、無理! ー
もう一度、息を大きく吸って、吐いて、数回、繰り返し、翔太は、再び、セレアに目を向けた。
腰から延びる白い肌の足は、、、。
ー 、、、! ー
弾けるように、首が外を向いた。
翔太は、すでに頭に血が上りすぎてふらふら。
「どっ、どうする?」
何とか、自分を落ち着かせようと、目を閉じ、深呼吸。
覚悟を決めた。
一瞬、焚火を睨んで、ギュッと歯を噛み締めた翔太。
勢いを殺さないようにして、セレアの背中へ目を動かす。
ぐっ、と、飛び上がるように立ち上がろうとして、
横に、黒い毛玉を見つけた。
ブラックだ。
読んでいただき、ありがとうございます。
よければ評価をお願いします。




