異世界へ行く前に。 1
気が付くと、真っ白な空間に浮かんでいた。
翔太は、周りを見回すこともなく、目の前で座っている男に目を向けた。
「よう。」
声とともに片手を軽く上げた男は、形容しがたいほどに美しく、そして、不機嫌な雰囲気を隠すこともなく放っていた。
「あっ、、。貴方は?」
ー 神、、。 ー
「まぁ、そんなところだ。」
男は、尖らせた口調で、ぞんざいに答える態度も美しかったが、翔太は、気にする様子もなく、やっと周りを眺めた。
「じゃあ、ここは、、。」
「死後の世界ってやつだ。」
「、、、、、、、、。」
刹那の前がフラッシュバックし、沈黙した翔太は、胸に、灼熱の痛みを思い出し、手を当てる。
男は、その翔太の様子を、観察するように目を細めて見ていた。
「どうやら、自覚はあるようだな。」
「まぁ、、。」
ー 痛いを抜けると、熱いんだね。 ー
うつむく翔太を眺める男は、少し、目に哀れみの色を見せるが、その色はすぐに消え、その目はいつの間にか横にあるモニターらしいものに向けられた。
「でと、自覚があるなら早い。お前は、最後の時の行動によって、ギリギリ、もう一度、人生をやり直すためのチャンスを得ることができたわけだ。」
マウスらしきものを片手で動かしながら、男は、話を続ける。
「そうだな、お前にわかりやすく言うなら、異世界転生ってやつだ。」
はっと、翔太が顔を上げた。
「異世界転生!?」
同時に、男を、上から下まで眺め見る。
いきなり変わった翔太の目線に気が付いた男が、さらに目を細めて翔太の方を向き、口を開く。
「なんだ?」
「あっ。いえ。こういう時は、女の人が出てくると思っていたので、、、。」
男の目が、あきれたように丸くなり、すぐに、怒気を含んだ鋭いものに変わった。
「おい。言っておくが、俺だって野郎の相手はしたくないんだぞ。」
その強い口調に、思わず仰け反る翔太。
「うっ。と、すいません。」
慌てて謝り、小さくなる。
男は、ちっ、と、聞こえるように舌打ちをすると、もう一度、モニターらしいものに目を向けた。
「まぁ、いい。理解はしているみたいだからな、何か、聞きたいことはあるか?」
「えぇっと。それだけですか?」
片手で、キーボードらしきものを叩く男を、うつむき加減に見上げる翔太。
「それだけ、とは?」
手を止め、横目に翔太を見る男。
「その、チートとか。」
もごもごと、下を向く翔太。
「、、、、。最初に言った。ギリギリだと、つまり、お前には、、、、、、、、。」
途中で黙ってしまった男に向かって、翔太が顔を上げると、男は、食い入るようにモニターをのぞき込んでいた。
「あのぅ。」
「お前、若いよな。」
「はぇ?」
想定外の男の問いに、変答をしてしまう翔太。
「だからな、ここに来る奴は、大体が年を取っているから、若返りが標準なんだよ、そいつをなくせば、ちょっとは余裕ができる。」
男は、答えながらも、両手を忙しく動かし、モニターらしきものから目を離さない。
「本当ですか?」
翔太の目に、一気に、星が広がった。
「あぁ。」
対して、男の方は、今度は、顎に手を当て、考え込んでいる。
、、、。
期待に満ち溢れた目で、黙る男の答えを待つ翔太。
「そうだな、どんな能力が欲しい?」
「えっ、選べるんですか?」
考え込んだ様子のままで喋る男に、さらに、期待を膨らませた翔太が声を上げた。
「一応、な。何が欲しい?」
「えっ、えーっと。」
翔太の胸に、灼熱の痛みが思い出される。
答えは決まっていた。
「ヒールを、ヒールが欲しいです!」
間が空く。
「ヒール。だと?」
何を言っているんだ、と、語る目が翔太に向けられた。
「あっ、、。その、、。」
期待とともにしりすぼみになる翔太。
「お前、言っておくが、ヒールは、相当なチートだぞ、何しろ、普通に死んじまう世界で、死ぬかもしれない怪我を回復できる可能性があるんだからな。」
「う、、、。」
無理だ、と、言外に言われたことを理解した翔太は、またもや俯いた。
男は、期待させたことを悪いと思ったのか、ため息をつき、また、モニターらしいものに目を移し、手を動かし、そして、黙った。
「、、、。暇つぶしにはいいかもな。」
「えっ?」
どうしようもなく、俯いていた翔太の耳に、男の呟きが聞こえた気がして、顔を上げる。
男は、自分が呟いたことに気付いた様子もなく、モニターらしきものを真剣な様子で睨んでいた。
「念のために確認するが、若返りはいらないよな。」
「あっ。はい」
やることが無かった為、手をいじくっていた翔太は、急な男の声に、とりあえず答える。
「よし。」
モニターらしきものから目を離さず、キーを叩くような音だけが聞こえる。
「美化は?」
「美化?」
オウム返しする翔太。
「要は、美男美女になりたいか?ってことだ。いらないよな。」
男の中で、答えは既に決まっているらしい。
「あっ。まっまぁ。」
微妙に迷うも、答える翔太。
「よし。」
キーを叩くような音が、翔太の微小な不安を誘うかのように、再び響いた。
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