58番地 レイド1
雷公の間。ただし、雷公はおらず。
代わりに待ち受けるは、運営使者たる巨大白猫。その周囲には、『滅塵たる7種の武器が浮かんでおる。そして、第6人格の乗る阿修羅王。加えて先ほど合流した3体。第4人格の乗る福ダルマ人形、第23人格AとBが各々乗る風神、雷神。
既に風神・雷神は上空に舞い、臨戦態勢を取っておる。恐らく風神の属性に感応したのだろう、この部屋は風神・雷神が入室した時点で、急拡大し、地面を除けば、果てが見えぬ。
にもかかわらず、先ほど第2人格の乗る三位一体が通り過ぎるのを許したばかりである。
なぜ、こうなったかといえば、すべて地獄巡りのマスターの要望に従ったゆえであった。妻の仇を己に討たせてくれと――攻略部隊中に仇がおることを知ったマスターが、願い出たのであった。これより先、運営使者と阿修羅王、そしてマスターで作戦会議を開いた折のことであった。
運営使者は『無勝堂』に武器をたずさえて行った際に、そこの召喚師の預かる双眼 鏡子の記録した映像を見ておった。それにより、殺害犯が第2人格の1体であると判明したのだ。噂は以前からあったが、確証はなかった
それをマスターに作戦会議にて教えたのだった。そして、母上の方はわしらで迎え撃ちましょうとなったのだった。チームワークを考えるならば、雷公は主従の間柄にあるマスターと共に、他方で運営政府に属するわしらはわしらで固まってというのは、自明の布陣であった。
福ダルマ人形がもたらした情報は2つ。
まず、第3人格は母上に『運ゲー野郎』への攻略を願い出、許されたとのこと。それもあって、第3は『地獄巡り』から入り、残り3部隊は『運ゲー野郎』から入ることになったとのこと。
2番目の情報。母上の乗るはコンビ機体の『陰・陽』。強さも伝説なら、扱いの難しさも伝説であった。
その具体的な強さが明らかであれば、『地獄巡り』のマスターや『運ゲー野郎』に助勢として部隊を分かつことはできるが。母上がその布告にて召喚師殺害の意思を明らかにした以上、ここで母上を止めねば同じこと。その凶行は防げぬ。
彼らには、ダンジョン連合間の協力でしのいでもらうしかない。遊軍として残して置いた第23人格Cも、好みの機体を隠匿場所――かつて第6人格が換装しておった基地――から選び、向かっておるはずであった。
やがて、ギイとの扉の開く音とともに、雷が空間を縦横に駆け巡る。入室して来た母上の2機に対する雷神の歓迎のあいさつであろう。
「なるほど。これはよほどのすぐれもの。焼け焦げぬどころか、ピリともしびれぬわ」
そう言う巨大白猫、そして阿修羅王、副ダルマ人形――いずれも雷耐性がない――は、マスターにもらった竜身の脱皮をまとっておった。