56番地 防衛準備
運営使者は7種の武器よりなる『滅塵』をあらためる。久しぶりに握るそれらの重さを確かめる。
「常道ではないがな」とひとりごちつつ。(ただ、それゆえに使用を予測できぬはずで、母上への特攻となりうるかもしれぬ)との願望交じりの想いはさすがに声に出すは控えた。
運営政府に属するものたちは、通常、機体を選定して、その強さを頼りに戦う。そして、強い機体は多く専用武器を備えており、それを用いることにより初めてその機体のポテンシャルを最大限引き出すことができる。
ひるがえって、強い武器、特に『滅塵』の如くを用いるならば、相乗効果を得られぬどころか、互いが互いを邪魔して、機体も武器も存分にその力を発揮できぬ。
己が今乗っている非戦闘用機体の方が、『滅塵』の力を存分に発揮できよう。
ふとした拍子に雑然と置かれた武器群が目に入る。これも、また『阿修羅王』や『滅塵』ともども、己が隠匿し、その保管を第6人格に委ねていたものだった。正直、これまでガラクタ同然のぞんざいな扱いをして来たが――機体との相性の悪さなどから――ただ、ダンジョン側の者が用いるなら、役に立つかもしれぬと想い至る。
『運ゲー野郎』のマスターは体を硬化させて戦うと聞いた。裏を返せば、ろくな武器が無いということであろう。それに、マスターが用いなくとも、他の者が用いるかもしれぬ。
彼自身が考える弱い順である『運ゲー野郎』、次に『無勝堂』を巡りつつ武器を選ばせ、それでも余れば『ぺろぺろ』に置いて来ようと想った。これらのダンジョンは、場合によっては、我らの助太刀無しで敵に当たらねばならぬゆえ。それは、まさに敵攻略部隊の各ダンジョンへの散らばり方次第であった。
阿修羅王に換装した第6人格とともに旅立つ。ついでに、第6人格も紹介しておくことにしたのだ。援軍に赴いた先で、敵と間違われてはかなわない。
その最初のダンジョン、『運ゲー野郎』の入り口付近の地上で、そこの者たちがたずさえて来た武器群を物色する中、あの者の姿が目に入った。修復子だ。件の誤・転生体であろう。こちらに近づいて来る。
かたわらの第6人格も気づき、そちらに歩き始めようとするが、6腕の1をつかんで引き止め、
「あの者については分からぬことが多すぎる。といって、害とはなるまい。こちらが過剰な接触を試みさえしなければ。今は放って置こう」
第6人格はうなずき、そして近づいて来ておった修復子も止まり、やがては引き返した。
(察したのか? やはり知性はあるのだな)