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運ゲー野郎のモブ転生――ダンジョン連合vs運営政府  作者: ひとしずくの鯨
最終部 そこが地獄の一丁目な件
93/132

第53番地 存在形態の変容

 運営使者はダンジョン『ぺろぺろ』を経て、第6人格のところに立ち寄った。ちょうど通り道から近いということもあり、何より第6人格がどういう決断をしたのか知りたかったゆえだ。第4の誘いに乗ってくれていたら、ありがたいとの想いとともに。


 ただ、期待は早々に裏切られることになる。何体もの修復子が頭を突っ込んでおれば、その建造物が未だ機能しておるは明らかであった。


「やはり戦いは好まぬか?」


 恐らくは、その思想にひたっておるであろうから、すぐの返答は期待するべくもない。そう想い、建物の前庭ともいうべき――というか、ただの草むら――に腰を落とす。修復子の中には、地表と見えるもの――横(X)軸と縦(Y)軸の格子模様を修復しておるのだろう、ガサゴソしておる者も多い。彼らにとっては、それが食事でもある。あれに戻るのが我らの幸せへの道かもしれぬな。忘却と退落たいらくこそが。そんな、とりとめのない想いが、頭上からの声により断ち切られる。


「待ってたよ」


「珍しいな。表に出ていたのか?」


「言ってるだろう。待ってたって。そなたと共に戦うことにしたよ」


「それで第4の誘いは?」


「断ったよ。あいつを支えるのは、23が適任だ。何やら、グダグダ言っていたが、そんなことは、あいつ自身が良く分かっているはずなんだがな」


「わしを支えるのは、そなたという訳か?」


「嫌か?」


「嫌なものか。ありがたい」


 運営使者の最後の言葉ばかりか、その肩までも震えておった。


「そのように喜んでもらって、なお、これを言わねばならぬのはつらいが、わしは既に完全ではない。もはや機体を十分に操れぬのだ。とはいえ、できるだけのことはする」


「何か、あったのか?」


「あれだよ。修復子の・転生体の件だよ。あれに知性があるのを知らずに、上書きを試みた結果がこれだ」


「知性があるのか?」


「ああ。あれが送って寄越した映像からの結論だ」


「そうか。知性があるんだな。ならば、確かに禁忌」


(しかし、どういうことだ。禁忌とは単に上書きできないというだけの話ではなかったか? 機体コントロール能力の低下を引き起こすとは想えない。そんなことが生ずるとすれば、逆に上書きされかけたというところだろうが? 誤・転生体によって? まさかな。


 記憶領野への上書きは、我らの種族が進化への途中で獲得したむべき能力である。修復子の段階ではこれを持っていない。この能力のせいで、互いが互いを上書きしあう、地獄絵図の社会へと変じた。そして、我らは、何らかの理由――吉祥や僥倖ゆえと伝わる――で、その能力を失い、そのおかげで、進化の最終形態たる母海へ至るを得た。


 記憶領野への上書き対決は、知性が高い方が勝ち、劣った方を上書きしていたと伝えられる。誤・転生体ゆえに先祖返りし、上書き能力を取り戻したのか。ただ、そうだとしてさえ、修復子が第6人格を知性で上回るなどありえない。ほぼほぼ、その生を思索へ耽溺することで過ごして来たこの者を)


 運営使者はペロペロのダンジョンのマスターの部屋の手前の控えの間にて、こちらを見つめておった者を想い出す。何で、修復子がダンジョンの間にと想ったが、あいつだったか? 想い返せば、何か言いたそうであり、知性ありといわれれば、うなずけはする。そのときも興味は惹かれたが、結局、その者は口を開かず、またダンジョン巡りの途上にある彼に、かまっている余裕はなく、また、何よりペロペロのマスターの様子が心中のほとんどを占めておった。


 属性アップの効果により、マスターは存在形態の変容とでも言うしかないものにみまわれておった。その部屋と融合しておったのだ。果たして、どこまでがマスターでどこからが部屋であるのか、最早区別がつかなかった。ひとしきり、レイドなどの説明をしても、マスターは心ここにあらずのようであった。「大丈夫ですか?」とのこちらの問いに「大丈夫」とのいらえ。最後にその2語をかわし、そこを後にした。


 存在形態の変容。もしかして、母上もまたそれを目指しておるのか? ただ、彼を現実へと連れ戻す声が聞こえた。


「残念な状態に申し訳なく想うが、加えて頼みがある。そなたから機体をいくつか預かっておった。それを一つ貸して欲しい」


「心配無用ぞ。そのような欠落を補ってくれる機体がある。オートでこそ最強。わしのものぐさに感謝してくれ。それに、そもそも6腕。操りたくても操れぬよ」


「阿修羅王か?」


「そうだ。不足か?」


「いや。そなたが使うべきと想うてな。わしは次善で良い」


「わしは慣れておるこれで良いのよ。それに、今回は『滅塵めつじん』を用いる。機体頼りでなく、武器頼りという訳さ」

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