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運ゲー野郎のモブ転生――ダンジョン連合vs運営政府  作者: ひとしずくの鯨
最終部 そこが地獄の一丁目な件
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50番地 シャクトリンゴの帰還

 女性陣が騒がしい。ダンジョン・マスターの間に常駐するのは、ミーたん含めその合唱団の面々となる。それに隣室から出て来た女神様が加わってであった。女性が食いしん坊であるは、こちらでも変わらぬらしい。そう。シャクトリンゴが帰って来たのである。そう、あの美味なるキノコに再びありつけるからである。


 ただ一つ残念なのは、火力枠――といって、武力としてのそれではなく、料理用なのだが――の『ピヨ丸』がいないことである。しかし、捨てる神あれば拾う神あり――多分、俺(道夫)、用法、間違ってるぞ――という訳で、今回は『焼けぼっくり』(注)――俺が名付けた――がいる。その姿は松ぼっくりそのものである。全身を熱くすることができるのだが、ミーたん合唱団に所属していることから明らかな如く、ほんのりという程度である。


(作者注:「焼けぼっくい」が正しい。ただ、私のように誤って「焼けぼっくり」と記憶しておられる方もおられるのではないか。ぼっくいには「棒杭・木杭」の字があてられ、木の杭や木片を意味する。ところで、ぼっくりというのも別にあり、女児用の下駄とのことである。私自身、何となく「焼けぼっくり」を「焼けた松ぼっくり」と誤って認識しており、ここでは形がこれが一番面白いということで、これを採用した)


 早速、皆からキノコを押し当てられ、くすぐったいのか、楽しそうにしておったが――体をくねらせていたのかもしれぬが、所詮、松ぼっくりの体となれば、それには限度がある。


 やがて火力不足が明らかとなり、誰も押し付けなくなる。女神様が「火があった方がいいよね。持ってくるわ」と松ぼっくりへのあきらめとも取れる宣言をし、隣室に戻ろうとする。それを、シャクトリンゴと共にやって来た者――神農しんのうという名だそうだが、何より、俺はその姿にびっくらこいた。何せ、人の体の上に牛の頭が乗っかっているのだ――が止めて言うには、


「もっと熱くすることができるかもしれません。これを食べてみてください」


 シャクトリンゴの頭から一本、いかにも毒毒しい赤黒マダラのキノコを採って差し出す。これこそ、『捨てる神あれば拾う神あり』なのではないか、そう想いながらうかがう俺。


 『焼けぼっくり』はがぶりと食いつく。すると、目がとろんとして、体がわずかに震えている。


「大丈夫なの?」

 と俺が尋ねると、


「これを食べると、白日夢を見るのです。ただ、それから覚めると、魔力が増している場合があります」


「いや。聞きたかったのは、体に危険はないのということなんだけど。毒キノコじゃないの?」


「私自身が試してみました。夜に見る夢と同じですよ。どんな夢を見ようと、覚めてしまえば、それまでです。

 ただ、私自身、これを食べてからあと、まったく酔えなくなりました。最初は一時的なものと想ったのですが、そうではありませんでした。ただ、転生前も私は酔うということはありませんでした。なぜかといえば、転生前の私は呪法を用いる治療師であり、その基礎的な能力として状態回復を備えておったゆえです。それで、どうやら、転生を境に失っておった治癒能力を取り戻した――そしてそれはこの赤黒マダラのキノコを食べたゆえだ――そう結論したのです。

 このキノコの効果は、ダンジョン『ぺろぺろ』にて他の者でも試してみました。魔力が増える者もおれば、そうでない者もおります」


「そこは運ゲーなのだな」


 俺がそう引き取ると、神農はしばし、いぶかしげに俺を見ておったが、


「ああ。貴方のダンジョン名は『運ゲー野郎』でしたね。不思議な名と想っておりましたが、そういう意味でしたか。そう、まさに運次第なのです」


 他方で、焼けぼっくりはようやく目を覚ますと、「チーン」と鳴いた。ちなみに、この者、言葉は喋れぬ。ただ、その体はみるみる赤くなる。すると再び皆がその体にキノコを押し付けるようになり、焼けぼっくりはとても嬉し気。ただし、体をくねらせておるかは、やはり分からぬ。


 ここで、もう一つ。ピヨ丸がおらぬゆえの問題が。そう。ミーたんへ届ける者がおらぬのである。ここで私に任せてくださいとばかりに進み出たのが「あべこべコウモリ」。かつての世界のコウモリは足でぶら下がるが、こいつは手でぶらさがる。


 身振り手振りで――何度もミーたんの方を指さす――私が運ぶと訴える。確かに、この者、今では部屋中を飛び回って行き来できるようになっておった。ただし、あくまで、その先に止まり木があれば、ではある。そう、女子の体操選手が段違い平行棒でやる要領で。


 見ておると、ぐるぐると体を回転させて勢いをつけ、確かにミーたんの方へ飛んで行くのだが。その面前を通り過ぎるばかりである。ここで女神様が動きそうなものだが、今は食事に夢中。なら、俺が代わりにとなりそうなものだが、俺は今でもミーたんが怖い。そして、触らぬ神に祟りなしとの信条を変える気もなかった。女神様が満腹になれば、動いてくれるだろう。


 そんなこんなをよそに、神農は赤黒マダラを他の者にも勧めるが。皆、興味津々という感じだが、怖いというのもあるのだろう、互いに譲り合っておる感じである。そんな中、


「私たち、食べてみる」


 と声を合わせて言うは、催眠魔法の使い手である双子の少女の『めい』と『みん』。そうして2人して食べると、やはりとろんとなる。そして、目を覚ますと、


「ねえ。夢の中で踊らなかった?」


「うんうん。手つないで踊ったよね。歌いながら」


「ここでやってみない」


「もちろん」


 そうして、2人で向かい合い、互いに手をつなぐと、「せえの」とどちらからともなく言うと、ぐるぐる回りだす。やがて、一方が歌い出し、他方が合わせる。双子なだけに、一人が歌っているようにしか聞こえぬ。ちなみに、未だに俺はどっちが『めい』ちゃんで、どっちが『みん』ちゃんか分からぬ。


(あれっ。効いている? 効いている気がする)


 俺は寝落ちしていた。女神様も同じだったらしい。神農も。他にはそうである者もおれば、そうでない者もおった。どうやら、言葉を理解できる者には、より強い催眠作用があるらしい。


 これが更に一悶着を起こす。寝落ちしなかった者がキノコをたいらげてしまったのだ。女神様はプンプン。俺が怒られた。いや、俺も寝落ちしてるんですけど。


 もう一人、機嫌を損ねたは、まったくありつけなかったミーたん。何となく、いや、間違いなく合唱団への当たりが強くなった。


 そこを救ったのは、やはりシャクトリンゴ。彼の体の栽培速度はすさまじく、数日でキノコは元通り。女神様とミーたんは二人(+シャクトリンゴ+焼けぼっくり+後述の1名)だけで、キノコパーティーをやったようで―――俺は呼ばれなかった――それで、ようやく機嫌をなおしたようだった。ちなみにミーたんへの運び役は、女神様が増設した止まり木を用いて、「あべこべコウモリ」が完璧に成し遂げたとのこと。「とってもおいしかったわ」との満足げな表情の女神様の報告によればである。


 そこで見せてくれたのは、レイドの話を聞いて、不安が増していた俺の心を――例え、そのときだけであれ――なごませるに十分な笑顔であった。

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