第9話 戦力向上?
そうこうしているうちに、三助の体が光に包まれた。
「おお。勝利のご褒美? レベルアップ来るか? 能力? それともアビリティ。全部でもいいぞ」
まさに期待のまなざしで見つめる。光が消えて現れたのは、姿形はまったく同じ。ただ、違いはすぐに分かった。4色になっておったのだ。これまでの赤、青、黄色にオレンジが加わり、よりカラフルになっておった。
「むう。能力アップと言えなくはないか。ただ、ダンジョンの戦力向上への寄与は最小限に留まったか。残念」
俺の不平不満をよそに、三助は嬉しげに体を揺すっている。
「でも、三助。せっかく女神様が名前を付けてくれたのに、それじゃあ、四助に改名しなくちゃならねえな」
と言うと、三助は三色に戻ってみせた。そうしてまた体を揺らす。
「とほほ。そんなところに上位互換を使うなよ。それより、俺はどうした。俺へのご褒美は?」
「はい。新たなレベル1のミーたんよ」
その声は女神様。俺と三助が騒いでいるのを聞いて――つまり生き残ったと知って――部屋から出て来たらしい。
そうして、差し出された両の腕には、50センチほどのかなり大きな人形が。金髪の巻き毛に青い目がぱっちり開いた可愛らしい少女人形であり、ヨーロッパ風の洋装――チェック柄のスカート姿であった――をまとう。フランス人形というんだっけ。あれに似ている気がする。
俺が手を伸ばして受け取ろうとすると、
「気安く触んじゃねえよ。汚らわしい親父の手で」
言われた言葉も信じがたいが、声の方も信じがたいガラガラ声の、しかも大音量の怒声であった。
「あらっ。ミーたんはご機嫌ななめね、でも慣れるまではしょうがないわね。ねえ。ミーたん。どこがいい?」
そう言いながら、彼女は両手で人形をかかげ、ぐるり回転する。すると、人形は壁の一カ所を指す。
彼女は一端部屋に戻ると、小階段と道具一式をたずさえて出て来た。小階段の上に乗って、壁に釘のようなものを打ち付け、そこから、大きなショルダーバッグみたいなものをつり下げる。そのバッグは上部が開いており、そこに人形を入れる。
「はい。ここがミーたんの定位置ね」
「無理して置いて行かなくていいよ。まだ、しばらく、そっちで育ててよ」
先ほど言われたことがショックで、俺は抵抗を試みる。
「だめよ。私の部屋にいれるのはレベル0の間だけ」
女神様の答えはかたくなであった。
「そういえば、俺の能力向上とかはないの?」
「ダンジョンマスターは死んだときだけよ」
「そんなことって。俺の楽しみが」