43番地 女王の布告
第12人格は再調査の報告を既に済ませていた。調査そのものも女王が命じたところのものだけをやるようにし、余計なことはしなかった。指定機体である伊能忠敬・改を用いて、ダンジョンに潜っては、敵に出会えば戦闘せずに退却することを繰り返した。
調査結果として、
既に分かっておった『運ゲー野郎』、『地獄巡り』。これらに加え、ダンジョン『無勝堂』と『ぺろぺろ』が結ばれていることが分かった。
また、『ぺろぺろ』のマスターはもともと「ランダム配置」を有しており、これを4ダンジョンに展開したものであると結論することができた。
ここら辺はまさに女王の指摘通りであり、女王の的確さに感嘆した。それとともに、前回の己の調査不十分を認めざるを得なかった。
結びつける部屋については、『地獄巡り』が100以上。100まではちゃんと調べた。恐らくはそれ以上なのだろうが、そこに時間をかけても意味はないと想えた。他のダンジョンは各々わずか1である。つまり、このランダム配置の展開は、明らかに罠――『地獄巡り』へと誘う罠である。
詳しくは知らないが、地獄巡りといえば、第2人格がやらかしたダンジョンとの噂があった。なら、その標的は第2人格ということか? 最もここにぞくぞくするものを感じたが、さすがに第2人格に触れることは控え、ただ、罠であることを強調して、報告を済ませたのだった。
そうして、日一日を、それどころか刻一刻をまんじりともせずに女王の返信を待って過ごした。己の第3人格への昇格を伝えるはずのそれを。ただ、女王はまたも彼の想定を大きく上回った。
《布告
題目:レイド
攻略ダンジョン:『地獄巡り』『ぺろぺろ』『無勝堂』『運ゲー野郎』の計4ダンジョン。
攻略部隊:女王、第2人格、第3人格、第4人格を指揮官とする計4部隊。各部隊の編成は各指揮官にゆだねる。
挙行の期日などは追って報せる。まずは部隊の編成をなし追えよ》
己の第3人格への昇格は、末尾に補注として記してあった。いかにも重要事でないというように。確かに題目となっているレイドの方がはるかに重要であるというのは、彼にも認めざるを得ないもの。レイドなんて、初めて聞いた。恐らく複数部隊による複数ダンジョンの攻略をレイドと呼んでいるのだろう。彼が知る限り、これが初レイドとなるはずである。
それどころではない。女王が指揮官って、なんのことだ。己の知る限り、女王とは「母海――我ら種族の集合意識」のはずであり、それが析出――個体化して、果ては攻略部隊の指揮を執る。そんなことは前代未聞だし、そもそも可能だとさえ想ったこともなかった。
第4人格が揶揄した言葉――己は重要なことどもを知り得る地位におらぬ――を口中の苦々しさと共に想い出さざるを得なかった。