33番地 第4人格と第6人格の語らい
手足さえない福だるま人形に換装しておるゆえに、我(第4人格)は猿もどきにここまで運んで来てもらう。この体は気に入っておるのだが、こうしたときのみ不便だと想う。
「少し第6人格と話をするから、しばし好きにしていてよいぞ」
すると猿もどきはキーキー言いながら、森の中に消えて行った。聞くところによると、第23C人格はこれへの換装をずいぶん不満であったらしいが。馴染んでしまったのか、今ではむしろ楽しんでいる気さえする。
「おい。起きているか?」
たくさんの地走りが頭を突っ込む大きな建造物らしきものに声をかける。
「わしはいつも起きているのよ。ただ、表の対応を簡易版に任せ、裏で思惟に沈潜しておるに過ぎぬ。しかし珍しい客人だな。といって、わしを訪ねて来てくれるのはそなたくらい。邪険にするつもりはない。しばし話をしようぞ」
「無論、そのつもりで来た。先の修復子の誤・転生体の件だ」
「嫌なことを想い出させる。何が聞きたい?」
「そんなに警戒しないでくれ。なんでああなったのか、その具体的なところと、実際に身をもって体験したそなたがどう想っているのか、それを聞きたいと想ってね。あれをそなたの失敗として笑いに来たわけでは決してない」
「笑うてくれた方が、気が楽よ。わしに落ち度があったのは確か。いきなりであったのでな。大魚を逃がしたよ。わし自身が表に出るべきであった。そしてより慎重を期しておればと」
「記憶領野の上書きを試みたのだったな。一般の修復子のデータにより。なぜ、できなかったと想う。やはり禁忌に触れたからか?」
「もしくは知性を有しておったかだ」
「修復子は我らの幼生に他ならない。通常、知性は未発達とされるが」
「奴は映像を送って来ていてね。それからわしの簡易版は奴が誤・転生体であると判別したのだが。のちに、わしが詳細に分析したところ、明確に思考が投影されていたよ」
「なるほど。それゆえ拒まれた。召喚に絡む禁忌ではなく、そちらの方か」
「うむ。知性データに対する非知性データの上書きは禁止されておる。恐らく始源のときから。転生したゆえに、幼生の段階で知識を得られたのだろうか?」
「もしくはアビリティとして獲得したかだ」
「ああ。そうだったな。そちらでも可能だな。とすれば、わしの失敗はより明らか。少なくとも、知性化しておるは予期すべきであったな」
「残念だが、そうなるね」
「ほら。言ったろう。笑ってくれた方が楽だって」
「そろそろ他の体に移る気はないのか?」
「何のために? わしの思惟に必要なのは幼生たちとの共生のもたらすやすらぎ。そして彼らの送ってくれる映像によってのみ、より深き沈潜が可能になる。
ところで、運営政府の方はどうなのだ? 相変わらず、かまびすしいのか」
「母上は第十二人格を使って何かをやっているようだ。しかし、何であいつなんかに」
それを最後の言葉として、第4人格は去った。
それを見送ったあとの第6人格。
笑ってくれ……か。まったく、己で言っておきながらだ。いずれ、笑ってはおれぬであろうというのが正直なところ。あれ以来、一部とはいえ、この換装体のコントロールを失っておる。わし自身、理由が分からぬゆえ、告げるを控えたが。迷ったが、いたずらに不安を与えるよりはましと考えて。