32番地 ぺろぺろと地走り
ぺろぺろは属性の間にて安楽の内にあった。かつてない力のみなぎりあふれる感覚と共に。そのどちらも、転生して後、ずっと得られないものであった。今にして想えば、よく正気が保てた。それほどの苦痛の中にあった。この心地よさを知っては、最早、耐えられぬであろうとも想う。
そして、これをもたらした者――全てがこの者のおかげという訳ではないが、多少なりともの役割を果たしたであろう者――己の故郷に近きものに変貌したここに入るは危険であろうゆえ、属性の間の外で待つ地走り――この者を地上に誘った。
ぺろぺろは外に出て周囲をうかがう。峨峨たる山脈が遠くに険峻を競い、やはり遠くに鳥獣の声が聞こえるのみである。とりあえず、近くに警戒すべき者は見当たらぬ。
「地上には監視の耳目が無いとはあ奴の言葉よ。こうするということは、我も心のどこかであ奴を信じておるのだろう。ああ、あ奴というのは、運営政府の使者のことよ。ところで、やはり、そなたは喋られないのかのう?」
そう問い、しばし待つも返事は無く、ゆえに一人語りを続けることにする。
「何せ、我は他のマスターと同様、ここを離れられぬときている。なので、これから話すことはあ奴からの伝聞に過ぎぬ。そのあ奴自身が己の邪推に過ぎぬかもと言うておった。あくまでも、そのような話として聞いてくれ。
そなたらの種族よりなるあの運営政府の中には召喚師に激しい敵意を持つ者がおると。あげく、もしかしたら、直接、手を下しておるかもしれぬと。ただ、あ奴自身、その確証を求めて動いておるが、未だ得られておらぬと。
わしが知るのはここまで。今度、あ奴が来たら、会わせてやろう。聞きたいことがあったら、聞いてみるがよい。そなた自身の種族については、当然我より良く知っていようからな」ここであらためて、地走りの様子をうかがい、気付いたようで「そうか。そなたは喋られぬのだったな。ただ、同じ種族なら、何とかなるやもしれぬしな」
最後は聞き手不在の本当の独り言の如くのつぶやきとなる。さえぎるものとてない風は、心地よさではなく痛みを感じさせ、彼をして、属性の間に戻るべくうながすのだった。