31番地 使者の到来2
俺の目に『あべこべコウモリ』の姿が目に入る。最近、やけに元気だ。体や顔はコウモリなのだが、こいつは足ではなく腕でつかまる変わり者。いや、案外、こっちの方がまともなのかもしれぬ。
そうして、ここ最近はまっておることに、今も熱中しておる。壁に挿した横棒――これは女神様がこいつの止まり木として用意した――につかまり、くるくると回っておるのだ。いわば体操選手の大車輪のように。よほどに楽しいらしく、四六時中やっておる。
ときどき、手を離してみているようだが、そのままスーと飛んで行くも、足から先、しかも仰向けの態勢である。なので、頭を先、仰向けの態勢を取ろうとして、うまく行かず、失速して、ポトリと床に落ちるを繰り返しておる。戦闘とはいわずとも、何らかの形でものになるまで、まだ先は長そうだった。
そんなとき、「おーい。来てくれ。どうやっても頭がはいらぬ」そんな声が聞こえる。あのアホ猫しか想い当たらぬ。
どうやら、女神様は俺に任せたということなのか、出て来ない。あるいは、小型版ともいうべき、あの屁コキ野郎の姿がちらつくのか? まさに坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、ということかもしれぬ。
仕方ないので、俺一人で出向く。天井にはまった頭をグイと押し上げ、俺も外に出る。そうして、一応ひざまずく。
「あっぱれじゃ」
そう言われ、何のことだろうと想い、顔を上げる。そうして、目に入るは、抜けるような青空を背景とした巨大白猫の顔。俺は不審そうな顔をしておったのだろう。
「ほれ。あれじゃ。わしが授けたアビリティ『隠し通路』の件よ。わしが想像すらできぬやり方で活用しおった。そうしてなしたダンジョン連合。素晴らしい」
これまで必死でやってきたことであったが、改めてそう言われると、嬉しくなり、ついつい顔がにやけてしまう。
「ついでという訳では無いが、頼みがある」
「はい。何なりと」
褒められたゆえか、つい、そう答えてしまう俺。チョロ過ぎないか。
「隠し通路のアビリティがもう一本増えたら、取っておいて欲しい。是非、紹介したいダンジョンがあるのだ」
「お安いご用です」
何か自分の言葉遣いが時代劇の台詞っぽくなっていることに気付く。敬語も満足に仕えぬ俺の脳みそが探し当て参照するのは、幼少期にじっちゃんと見ていたテレビ番組らしい。
「でも、どのようなダンジョンなのです」
「『存在の空処』。強力な援軍となろう」